『君だけのために』

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2日目は出店の裏方に回り、休憩時間は未央たちとメイドカフェやお化け屋敷などを楽しんでいた。 午後から徐々に片付けが始まり、私は各教室から出された廃材をひたすら校庭に運んでいた。 体育館の最後の演目が終わり、バスケ部とバレー部が一斉にパイプ椅子を撤収する。 「来賓用に持ってきたやつ混ぜない様によく見てよー‼︎」 女バスキャプテンのいい声が響く。 吊看板が下ろされて舞台の上に積み重ねられていく。フロアシートを巻き取り機で回収し終えた女バレがモップで掃除を始める。大道具が解体され、男バス勢に運ばれて行く。 窓の外はすっかり暗くなり、体育館は元の姿に戻った。 みんなわいわい騒ぎながら校庭へと出て行く。 最後の一人になった私は、落とし物をぐるっと一回り確認して歩く。 体育館の隅に寄せられたパイプ椅子が五脚。『生徒会室』と書かれた切れ端がガムテープで貼りつけられている。 左腕に二脚、右腕に三脚を通し持ち上げてゆっくりと歩き出す。 「まあ、持てなくはない…かな」 3階の奥の生徒会室までなら一気に行けそうだ。 体育館を出て外廊下を歩く。 校庭からは賑やかな声が聞こえてくる。もう後夜祭が始まっているみたいだ。 うちの高校の後夜祭では毎年入口の送迎門や廃材を燃やしてファイヤーストームが開催される。 そして、特設の舞台ではカラオケ大会やバンド演奏が催され盛り上がる。 毎年舞台から熱烈な愛の告白をするのがお決まり行事になっていて、昨年は、私と入れ違いで卒業して行った当時の3年生がプロポーズみたいなのをしたらしい。さぞかし盛り上がった事だろう。 誰もいない薄暗くてシンとした廊下を歩く。 昼間とはまるで違う雰囲気に、何だかちょっと悪いことをしている様な気分になった。
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