『君だけのために』

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「あーあ、ぐちゃぐちゃになっちゃった」 そう言って長屋君が髪を撫でてくれた所でハッと我に帰る。 「じ、じゃあBメロやろっか?何かイメージとかあるかな?」 「んー、何かさ、サビに向かって段々盛り上がってく感じがいいんだけど…」 「んー…『この胸を』に入りやすい感じ」 何パターンか弾いてみる。何となくしっくりきたものを和音にして探りながら 「どう?」 「んー…」 「こっち?」 「ラーララララーで上げるそれ‼︎」 「あ、うん。これいいね‼︎」 「したら、その前はさ…」 そう言いながら長屋君が右手の三本指を使ってメロディーを弾く。 肩が触れ合って、指が触れ合って…さっきまでなら恥ずかしくてサッと身体を離していただろう。でも今は、完成間近のこの曲に夢中でそれどころでは無い。身体を寄せ合って2人で作り上げる。 私がBメロを書き込んでいる間、長屋君はラストのサビを口ずさんでいた。そして突然書き換え始めた。 「えー…どこ変えるの⁈」 「いや、ここを増やしたいだけ」 「あ、繰り返して重ねて歌う感じ…」 「どう?」 「いいじゃん‼︎天才‼︎」 「だろ?」 「でもこれじゃ1人で歌えないんじゃない?」 「俺、これ瀬戸さんと歌うもん」 「は?」 「これは俺と瀬戸さんの曲だから、一緒に歌う」 「私も一緒に歌っていいの?」 「俺と瀬戸さんしか歌っちゃダメ」 「…ちゃんと歌えるかなー?」 嬉しくてニヤニヤする口元を一旦引き締める。
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