『君だけのために』

11/32
前へ
/32ページ
次へ
「じゃ…」 長屋君が息を吸う。私は歌に合わせてピアノを弾き始める。長屋君の声に途中から重ねる様にして、俗に言う追っかけメロを歌う。 できたてのBメロは違う歌詞での追っかけを取り入れている。 顔を見合わせながら確認する様に声を合わせる。 ピアノの音はロングトーン終わりからクレッシェンドでサビに向かう。 一拍置いて2人でサビを歌う。 その後B、サビ、A、B、サビの順に歌い、ラストは『この胸を』と同じメロディーで違う歌詞での追っかけを3回歌ってから残りのサビに繋げる。 一旦音を切って、息を合わせてラストの『きっと今なら』を競う様にロングトーンで歌い上げて終了。 「あー‼︎負けたー‼︎」 長屋君がケラケラ笑う。つられて私も笑った。 ものすごい達成感だった。 「最後、良かったね‼︎歌いながら感動しちゃった」 「俺もだよ」 冷静な状態で聞く至近距離のイケボにハッとして少し身体を離す。 「あ…これ譜面、もっとちゃんと書いた方がいいよね?」 「いいよ。このままで」 「脇とか色々メモ書きしちゃったりしてるし」 「日にちと名前書いて」 「え?」 「一生大切にするから」 深い意味なんてない。分かってる。彼はこういう人だから。 自分の何気ない一言が人の心をどれ程揺り動かしているのかなんて、きっと本人は分かっていない。 私の書いた日付と名前を確認した後、隣に自分の名前を書いて 「完成‼︎俺たちの曲ー」 そう言って笑った長屋君の顔を… 私は多分、一生忘れないと思う。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加