『君だけのために』

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5月の連休明け、6月末にある合唱祭の練習が始まる。 「瀬戸、ピアノできるんだったよな?」 帰り学活での担当決めで、担任がみんなの前で私に声をかけた。 「…はい」 「じゃあ伴奏は瀬戸だなー」 「他にいないの?ピアノ弾ける人」 長屋君が挙手しながら言った。 驚いて、ずっと意識的に見ない様にしていた彼を見てしまった。 「瀬戸じゃダメなのか?」 「瀬戸さんさ、歌めちゃくちゃうまいから歌った方がいいと思う。朝美とかピアノできんじゃない?」 「えー?やだよ。私歌いたーい」 笑顔の長屋君と目が合った。 私はすぐに目を逸らした。 「…先生‼︎私いいです。ピアノ弾きたいです」 「えー?」 「私、歌うの好きじゃないので」 「…」 「…なら、ピアノは瀬戸で決まりで、いいか?」 「はい」 その後指揮者決めとパート分けをしている間に私は荷物を纏めて教室を出て行った。 色んな気持ちがぐちゃぐちゃになっていた。
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