『君だけのために』

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「…ねぇ、聞いてないんだけど」 「言ったらパスされると思ったんだもん」 男バレの5人と一緒にカラオケに向かう。 2年の先輩3人と、1年が2人。 156センチの私からは全員見上げる背の高さだ。 みんな凄く気さくで優しい。 よく肘置きにされて揶揄(からか)われるが悪い気はしない。 一番奥の広い部屋に荷物を置き、佐々木先輩と綿貫先輩と私が3人で通路途中にあるドリンクバーに向かった。 「あれ?清花ちゃんじゃん」 朝美と長屋君がいた。目が合った。 先に逸らしたのは長屋君だった。 「朝美、行こう」 「あ、先行ってて」 朝美を置いて不機嫌な長屋君が歩いて行く。 「ちょっといい?」 朝美に引っ張られて先輩たちと少し離れた所に連れて行かれた。 「何?」 「あのさ、元晴が中学の時好きだった子って知ってる?」 「え?」 「何かさ、元晴が入学してすぐくらいの頃よく歌ってた歌があるんだけどさ」 「あぁ…」 「いい曲じゃんて言ったら『好きな子の事考えて作った』って言ったんだよね」 「そう、なんだ…」 「知らない?」 「私ずっとクラス違ったから、ちょっと分からないや…」 「そうなんだー。いや、最初さ…清花ちゃんが彼女なのかと思ってたんだよね」 「全然。彼女なんかじゃないよ…」 「うん、元晴も違うって言ってた。でもねー…」 「ん?」 「俺の夢を叶えてくれた天才ピアニストなんだって言ってたよ」 「…あぁ、そうなんだ」 モヤモヤした気持ちが吹っ切れた様な気がした。
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