『君だけのために』

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微かに音楽が聴こえてくる。今めちゃくちゃ流行っているドラマの主題歌で、私の大好きな曲だ。 階段を上りながら口ずさむ。ガチャガチャとパイプ椅子がぶつかり合う音が響く。 腕は少し痺れているけれど、歌っているから楽しくてあまり気にならなかった。 「瀬戸さん‼︎」 階下から急に声をかけられ、驚きのあまり身体が大きく跳ねた。 振り返らなくてもわかる。階段を駆け上がって来る音がする。 「何やってんだよ⁈」 息を切らした長屋君が私の右腕にかかったパイプ椅子を三脚纏めて掴みスルッと抜いた。 圧の無くなった腕に一気に血が流れてくるのを感じる。 「…長屋君、後夜祭のバンド出るんじゃないの?」 「出るよ」 「じゃあもう行ってた方が良いんじゃない?」 「…まだ時間あるし」 「そうなんだ」
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