『君だけのために』

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想像と違いゆったりとしたバラード調で始まり、Aメロは物語の幕が開く様な…余韻のある終わり方だった。 後半は意識してるのかどうなのか分からないけれど…フラット気味で優しく揺らぎ、胸に響く歌声だった。 私は長屋君の歌声に、予想通り魅了された。 「どう?弾ける?」 ハッと我に返り、聴こえた通りに弾いてみた。 「こんな感じ」 「何か…思ってるのと違うんだよな」 「多分、こう…なんだよね」 音を修正して弾いてみると、長屋君は 「あー、うん。この音」 思ったよりすんなり出来上がりそうだ。 曲の付いていないBメロを飛ばしてサビの『この胸を』から歌ってもらった。 歌詞の内容と、声の揺らぎが合わさりAメロを遥かに超える魅力を感じた。 実際に譜面に書き込んでみると、ト音記号の横にはフラットが五つ。 不規則に伸ばされた語尾の拍を調節してそこに適した和音を当ててみる。 「ちょっ…と、マジか⁈」 「あ、ごめん。勝手に…」 ハッとして左側に立つ長屋君の方を見上げると、思いがけずドアップの距離まで彼が顔を寄せていた。 そしてそのまま強い力で抱きしめられた。 「え…」
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