『君だけのために』

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次の瞬間 「ヤバいって‼︎歌うますぎだろ」 そう言って長屋君は私の背中をバシバシと叩いた。 どうやら私は無意識に歌っていたらしい。 「痛ッ‼︎ちょっ…」 「瀬戸さんに頼んで大正解だったー‼︎」 身体を離し解放されたかと思いきや、 今度は両肩に手を置かれ前後に揺すられる。 「B…後は、B…」 「よし‼︎この流れですげぇBメロ作ろうぜ‼︎」 そう言って長屋君は、片膝をついていたさほど広くも無い横長のピアノ椅子に腰掛けてきた。 どんどん速度を上げていく私の鼓動はおよそ160テンポ…ヴィヴァーチェ、だ。 身体が触れない様に私はさり気なくギリギリまで右にずれた。 クリップボードに挟んだ五線譜に、念のためAメロから5列程空けてサビのメロディーを書き込む。 興味深そうにそれを覗いてくる長屋君の髪が私の頬に触れた。 「長屋君てすごい猫っ毛だよね…」 「何?ネコッケってー?」 「え?髪の毛がふわふわしてて、柔らかい…」 「そう?」 長屋君が左手で自分の髪の毛を掴み、首を傾げる。そして、…彼の右手は私の髪をそっと掴んだ。 それを自分のと比較する様に数回繰り返した。 「確かに俺の方が柔らかい気がするー」
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