雨の女と魔法少女

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 ざあぁぁぁ、という雨音と毎日セットしているスマホのアラームで目が覚めた。雨のせいか湿度が上がっていて部屋の空気が重たい気がする。エアコンをつけたい。でも先にアラームを止めないと……と思って探り当てたスマホの時間を見て飛び上がった。 「遅刻する……!」  既に何度目かのスヌーズかも判らない。僕が取っている講義は朝一からのものが多くてほぼ毎日朝から学校だ。しかも今日に限って人数が少ないクラス制の講義。遅刻や欠席は大いに目立つ。何としても避けたい。  僕は慌てて起き上がると何を捨てるか考えた。朝食、当然除外だ。着替え、仕方がない。寝癖、どうしようもない。どうせ湿度でどうにもならない。人間としての尊厳を失わないために洗顔と歯磨きだけを選択して僕は急いで済ませる。昨日と同じ服のまま、同じリュックを持ってスマホをジーンズの尻ポケットに突っ込んで玄関へ走った。スマホをポケットに入れた時にぐしゃ、と紙が折れる音がした気がしたけれど、そのまま捩じ込むとスニーカーを突っ掛けてビニール傘を取る。  そういえば、と思った。昨日は折り畳み傘をあのドタバタの中で道に置き去りにしてきた気がする。あの時点で既に狭間にいたなら傘がどうなっているかは判らないけれど、どうせ外は雨だ。しかも結構な本降りの。折り畳み傘で太刀打ちできるようなものではなかった。自転車が使えない以上、なるべく急いで大学へ向かわなければならない。  僕は玄関の鍵を手に厳重に施錠した鍵を反対の手順で外して玄関扉のノブを回した。急がなきゃ。そうして飛び出した先に誰かがいることなど考えてもいなかった。だって別に、誰かが迎えにくるようなことはないし朝っぱらからセールスに来るようなこともない。だからドアを開けてすぐ見慣れた折り畳み傘が視界に入って、え、と思った。  前髪が額に張り付いた、スーツ姿の女が立っていた。折り畳み傘を広げた状態で、僕はその目の前へと飛び出す。 「あ──」  僕の耳には同期の声が蘇っていた。昨晩聞いた、噂話。  ──雨が降った時にしか出ないんだと。その女の傘に入ると、消えちゃうんだってさ。
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