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首里そして狼歩
その名は首里。
言うまでもなく主役だ。
15歳の美パピヨン。
街を歩くと住人のみんなが首里のことを知っている。
「おや、首里。今日も男前だね」
頭にいつも変なものをかぶっている人が声をかけてくれる。
当然だ。
首里は首里なのだから。
「うん、狼歩くんも元気そうだね」
飼い主は狼歩という。
ここからが長い。
狼歩は、あちこちで誰かにつかまっては話し込む。
話し上手で聞き上手。
時には毒舌も披露するが、人あたりのよさと物腰のやわらかさでそうとは感じさせない。
ほどよいところで首里は狼歩が持っているリードを引っ張る。
それでも動かなければ、リードに絡まってみせる。
狼歩をもっとお散歩させてあげなくてはならない。
世話の焼ける飼い主なのだ。
狼歩がどんな仕事をしているかなど首里にとってはどうでもいいが、いい匂いのするお店や街角に置いてあるピアノを時折弾くことは知っている。
首里はそんな時狼歩を邪魔することはない。
春の風が吹き始めた北の街に、ピアノの音色が沁みてゆく。
正直者には見えるピアノとやや透ける飼い主。
妖精かもしれない。
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