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サビイ
西 令草の部屋の片隅に、ぬいぐるみがいる。
たぶんくま。
名前はサビイ。
ここだけの話だが中身は八百年生きている。
西 令草がびっくり人間になるよりは普通に生きることを選んだため、サビイは手のひらサイズの生地におさまっている。
サビイはゴジラにでもキングコングにだって入れるが、西 令草はそれを望む気配がない。
「なあサビイ。朝食は何にする?そうかそうか、いただきもののホッケがあったな。ん?だよな、朝は米に限るよな」
サビイはぬいぐるみの中で暴れた。
ホッケじゃないフォカッチャがいい。
米じゃなくこじゃれた紅茶があったではないか。
西 令草はサビイに意見を求めるわりには聞き間違える。
そもそも言葉が通じているのかも怪しい。
「……はあ、そうですね。それについては先日新しい占いを開発しましてね。ホッケの骨を使うんです。古代から受け継がれてきた究極のよく当たる……あれ、お客さま?電波がおかしいのかな、切れちゃったよサビイ」
電波なのは西 令草の頭の中だ。
サビイはいいから電話を貸せと叫びたかった。
西 令草は決して仕事をしたくないわけではないのだ。
本気を出せばおそらく変わってしまうものがある。
人は先や結果を知りたがるが、それは今を精一杯生きてからの話だ。
「あれ、サビイ、君そっち向いてた?まあいっか。次の仕事は取らないとね。腹はへるもんなあ。お徳用コッペパンばかりじゃ飽きちゃうしな」
少しホッケくさいサビイをひょいと持ち上げ、西 令草は呑気な仕草で定位置に戻した。
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