蒼井 風海花の場合

1/1
前へ
/12ページ
次へ

蒼井 風海花の場合

蒼井 風海花の正体は誰も知らない。 とある森のお城(みたいな家)から、食材を探しながら街までてくてく歩いてやってくる。 その脚力はもう魔法の域だ。 気が向いた時には、小さな小さなカフェというよりは古風な喫茶店を開ける。 陽当たりがよく、店の片隅には古いけれど手入れの行き届いたピアノが置いてある。 蒼井 風海花は年齢不詳、メイド服着用、脳内年齢七歳、なかなかの変態だが彼女が作る料理と菓子は絶品である。 9edd4f66-4b48-4f30-a81d-d78963622f87 西 令草などはこの日を知るために、わざわざ普段手にしないタロットカードを手繰るほどだ。 その日にはぬいぐるみは持ち主のポケットに勝手に飛び込む。 魔女の黒猫は飼い主よりも先に来て、裏口にぴたりと身体を寄せて様子をうかがう。 魔女もJKも声楽家のたまごも花屋もどじょうすくい講師も、万障繰り合わせて駆けつける。 この店にはメニューがない。 わがままな客たちはわりと好き勝手に好物を叫ぶが、蒼井 風海花は知らん顔であるもので作りたいものだけを作る。 脳内七歳児の特権だ。 それでいて客ひとりひとりの顔色と声音だけで、体調とその時に必要なものがわかるのは蒼井 風海花の特殊能力だろう。 客たちは今日も満足そうに笑い合い、ぽっこりした腹をなでながら店をあとにした。 dd6ff385-53e4-4a20-80c6-b26fdb47c45f目を離すと不穏な動きをするアレ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加