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蒼井 風海花の場合
蒼井 風海花の正体は誰も知らない。
とある森のお城(みたいな家)から、食材を探しながら街までてくてく歩いてやってくる。
その脚力はもう魔法の域だ。
気が向いた時には、小さな小さなカフェというよりは古風な喫茶店を開ける。
陽当たりがよく、店の片隅には古いけれど手入れの行き届いたピアノが置いてある。
蒼井 風海花は年齢不詳、メイド服着用、脳内年齢七歳、なかなかの変態だが彼女が作る料理と菓子は絶品である。
西 令草などはこの日を知るために、わざわざ普段手にしないタロットカードを手繰るほどだ。
その日にはぬいぐるみは持ち主のポケットに勝手に飛び込む。
魔女の黒猫は飼い主よりも先に来て、裏口にぴたりと身体を寄せて様子をうかがう。
魔女もJKも声楽家のたまごも花屋もどじょうすくい講師も、万障繰り合わせて駆けつける。
この店にはメニューがない。
わがままな客たちはわりと好き勝手に好物を叫ぶが、蒼井 風海花は知らん顔であるもので作りたいものだけを作る。
脳内七歳児の特権だ。
それでいて客ひとりひとりの顔色と声音だけで、体調とその時に必要なものがわかるのは蒼井 風海花の特殊能力だろう。
客たちは今日も満足そうに笑い合い、ぽっこりした腹をなでながら店をあとにした。
目を離すと不穏な動きをするアレ。
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