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算段
そよぐ風は清らか。中庭の隅に空を見上げる昼休みは至福。極力、他人と関わらないようにしてひと月。五月の空は透き通って青い。雲を眺めながら弁当の卵焼きを齧る。甘さが口の中に広がり、飲み込んで次は白飯に箸を伸ばした。
「春樹、こんなとこにいたのか」
時生が声をかけてきたが無視をする。
「なんで避けるんだよ? 中学の時からずーっと避けてさ。そんなんだから陰キャって言われるんだぞ?」
構うものか。みんながみんな友人を作りたいとは限らない。第一、僕は時生が苦手だ。
無視を決め込むが時生は勝手に隣に座る。鬱陶しい。
「俺、そんなに春樹に嫌われることしたか? 俺は春樹と仲良くしたいのに」
嘘だ。もともと僕は陰キャと言われるタイプじゃなかった。原因は時生にある。それ以上に時生は背も高く顔も小さく足は長い。優しげな目にえくぼを見せる笑顔。みんなの人気者なのに、ずっと僕に関わろうとする。洒落臭い。
中学二年のときだ。時生の特技に版画や彫刻があり、授業で僕の顔を彫ってもらった。その時はまだ仲良しだった。時生は僕の顔を美化したのだ。モデルが僕だと知らなかったクラスメイトたちは時生を褒め称えたが、モデルが僕だと知った瞬間、評価が変わった。
「時生くん、優しいね。春樹くんをイケメンにしてあげるなんて」
そんな言葉とともに変な噂が出始めた。僕が時生を好きなんじゃないかという類の噂だ。更に腹立たしいのが時生の態度だ。
「違うよ。俺が春樹を好きなの」
その日から学校は居心地の悪い場所になり、僕は時生を避けるようになった。勉強も運動も不得意で特技もない僕は時生に相応しくない。陰口は僕の心を抉った。事実ではあるが、時生が余計なことを言ったせいだ。そのため高校では一人でいようと決めたのに、時生はどこまでも追ってくる。どうして、そこまで僕に拘るんだよ。時生から逃げるために見つけた中庭も見つかってしまった。今度はどこに逃げればいいんだよ。
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