算段

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「できたぁ……」  五月の暮れ。深夜二時。カレンダーはついに完成した。成績が悪くては先生たちの心象が悪いと中間テストもみんなで頑張って平均以上を取った。授業も真面目に受けた。僕も時生もクラスメイトたちと話すようにもなった。全てカレンダーお披露目のイベントを成功させるためだ。  将棋盤のように重みのある算段盤。チェスのように足に細かな模様が描かれた駒。その駒に書かれた軍と帥の文字。全部で三十六個の青と黄色の駒。時生はそれらを保管する駒入れも作ってくれた。駒入れに彫られたCalendarの文字。僕のアイデアと時生の技術が詰まったカレンダー。 「やる?」  僕は気が逸って午前二時なのも忘れていた。 「いや、流石に寝かしてくれ……。疲れた……」  そりゃそうだろう。時生は細かい作業をずっと続けていたんだから。 「そうだよね。明日やろう」  時生の部屋だが、時生も僕もすでにパジャマ姿。お互いの家にお互いの寝具を置いているからいつでも泊まれる。これはもう幼稚園の頃から用意されてあって、お互いの親が僕らの成長に合わせて用意してくれていた。いつまで使うか分からないが、一応高校生の間は使いそうだ。半年ほど押入れで眠っていたが、またこうして使っている訳だし。  灯りを消して並べられた布団にお互い入る。すぐに時生の寝息が聞こえてくる。その音に安心して僕も目を閉じる。またこうして時生の一緒の時間を過ごすことができて良かったと噛み締めながら。  朝六時半。僕の目はパチリと開く。隣の時生はまた眠ったままだ。ならと僕はもう一度目を閉じる。カレンダーで遊ぶのは学校でもいいかと思いながら。おかげで改めて目が覚めたのは遅刻ギリギリになってから。  急いで準備して、別に用意していた簡易版のカレンダーも鞄に入れて僕らは学校まで駆けていった。 「これかぁ」  教室でさくらたちの前でカレンダーを披露する。すでに昼休み。クラスメイトは思い思いに時間を過ごしている。 「やってみよう!」  時生が真っ先に声をあげる。 「じゃあ僕が相手をする」  カレンダー完成までに新たに付け加えられたルールは三段になっている軍は隣り合っている一段の軍に一段ないし二段を移動できる。ただその動作だけでターンは終了する。  僕と時生は将棋でも熱中できるのだから、こういうゲームは楽しめるがいかんせん昼休みは短い。勝負がつかないまま引き分けとなった。 「なるほど。そういうゲームかぁ」  さくらも納得したようだ。 「じゃあイベント準備はじめないとね。放課後、先生のところに行こう」  話は進んでいく。先生がなんというか分からないが、そこで頓挫はしたくない。言ってみればこれからが始まりなのだ。
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