算段

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 放課後の職員室。先生たちはまだ作業している。僕ら五人は担任の佐々倉先生の机に向かう。 「おや? 揃ってどうしたんだい?」  別のクラスの時生がいることに佐々倉先生は言及しなかった。一番最初に口を開いたのは時生だ。 「佐々倉先生、僕たちボードゲーム作ったんです。まずは勝負しませんか?」  いきなり勝負を持ち掛ける時生に僕はつい吹き出した。 「いいだろう。相手は誰だい? そしてルールは? これは何かの前振りなんだろう?」 「その通りです。俺が相手します」  時生の胆力はなかなかだなと思いつつも、佐々倉先生と時生がカレンダーで勝負を始めると他の先生も集まってくる。 「これは頭を使うな……。誰の考案だい?」 「春樹です。春樹が考えました。駒と盤は俺が作りました。今使っている盤は簡易版ですが、将棋盤くらい重みのあるものも作りました」 「なるほど」  佐々倉先生は軍を三段にする。時生はいくつかを二段にして端から攻めていく。ほとんどの駒が同じ動きのために悩む時間も少ない。  最初に駒を失ったのは時生だ。だが、前に出していた駒は一段の軍でそのすぐあとに時生は三段の駒を奪う。縦九マス横九マスの盤で熱戦が繰り広げられる。そうしているうちに校長先生も勝負を見物しに来た。 「これはいい勝負ですねぇ。しかも新しいゲームですか」  校長の言葉を聞いて僕は口を開く。 「校長先生! 僕ら学校でこのゲームのお披露目イベントしたいんです! そのためにお願いに上がりました!」 「お願いします!」 「やらせて下さい!」 「ちゃんと勉強もしますから!」  さくらも竜太も隼人も続く。その様子を穏やかな目で見ていた校長先生は、うんと頷く。 「いいでしょう。でも平日は駄目ですよ。休日返上でいいなら土日のどちらかを使って結構です。場所の提供だけでよろしいですか?」 「ありがとうございます! 充分です! 運営は僕らでやりますから!」  僕の声でさくらがバンザイをする。 「やったーー! イベント勝ち取ったーー!」  その横で佐々倉先生と時生は熱戦を広げている。時生が優勢だが、まだ勝負は分からない。時生の額に汗が滲んでいる。 「そう言えば君は中学で版画や彫刻で賞をとっていたんだってな。ボードゲームも得意なのかい?」 「ただ単に好きなだけです。将棋やチェスは春樹とよくやっていたから」 「春樹くんも中学で色んなものをデザインしていたらしいね。これもまた才能発揮の賜物だね」 「春樹は本当すごいんです。自慢の親友です」 「なるほど。さて、これで王手だね」  時生が頭を抱えた。どうやら佐々倉先生は時生に話しかけて時生の判断を鈍らせたようだ。 「佐々倉先生、卑怯!」 「いやいや。知恵を使っただけだよ。ところでこのゲームの名前はなんて言うんだい?」  さくらがズルいと頬を膨らませる。僕をそれを笑ってみて先生方に告げた。 「カレンダーと言います。日本語ならば算段。だから僕らは盤を算段盤と呼んでいます」 「ほう。ちゃんと考えているんだな。お披露目イベント、先生も楽しみにしているよ」  こうしてお披露目イベントの場所は確保された。あとに日程を決めてビラを配る。ただ、今手元にあるカレンダーは駒と算段盤と簡易版の算段盤が一つずつあるだけ。ビラの作成はさくらたちに任せて僕と時生は、駒と算段盤を増やす作業をしなければならない。  それはそれで楽しい時間だ。
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