算段

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 時生の家で僕はノコで木材を切り分ける。切り分けた木材は時生が彫刻刀や小さなノコで形を整えていく。その細かな作業は到底僕にはできない。 「なぁ春樹」  庭で作業をしつつ時生が声をかけてくる。 「佐々倉先生、王手って言ってたけど他にいい呼称ないかな? こだわろうぜ」 「そう言えばそうだね。てか、そんなこと言い出すってことは何かいい案あるの?」 時生は手を止めてニカッと笑ってみせた。 「当然! 勝ちどきってどうだ? 凱歌ってのもあるけど、俺は当然勝どきがいい!」 「なるほど……。それでいこう。あと日程どうする? 六月にする?」 「六月にしよう! 期末はじまる前じゃないとみんな集まってくれるか不安だし、そこでうまくいったら文化祭でのイベントもできるだろう?」 「時生は、そんな先のことも考えているのか……」 「当たり前だろ! 俺らが協力して作ったカレンダーを一回こっきりにする訳ないだろ! 絶対成功させよう」 「頑張るよ」  そう言いつつ僕の頭の中にも先のことが浮かぶ。時生と仲直りしていなかったら絶対に浮かばなかった未来。僕らは離れるべきじゃなかったが、一度離れたから見えたものがある。その象徴がカレンダーだ。  お披露目イベントは六月中旬に決めた。さくらたちが作ったビラも六月に入ってすぐにできあがった。 「随分可愛らしいイラストだね」  うさぎや猫のゆるいイラスト。うまいとは言えないが下手とも言えないイラスト。いかにも女の子が描きましたって感じだ。  中央には算段盤に並ぶ駒の写真。これだけではルールは分からない。知りたかったら来てみてということだ。 「春樹と時生に見せてから刷ろうと思って。問題ないかい?」  ドヤ顔の竜太。自信があるみたいだ。 「問題ないよ。時生もOKだよね?」 「ん〜。俺はもう一言付け加えて欲しい」  ビラには日程と新しいボードゲームのお披露目であることと、高校生が作ったこと。それにイラストと写真。それ以上書き加えることはないと思うのだけど。 「なんて書くの?」  そこは聞いてみないと分からない。僕の問いかけに時生はニカッと笑って見せる。 「勝ちどきだ! って書いてほしい。カッコよくさ!」  成る程。時生らしい提案だ。僕も不満はない。 「お願いできる?」 「もちろん! いいレイアウト見つけるよ」  竜太が快諾してくれた。隼人は早速スマホでレイアウトを調べている。 「もうすぐだねぇ」  さくらがしみじみと言った。そうだ。もうすぐだ。まだ狭い世界かも知れないけど、僕と時生で作ったカレンダーが日の目を見る。本当にもうすぐだ。
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