算段

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 その日の夜、完成したビラの写真がスマホに送られてきた。時生の家で作業をしていたために、すぐに時生に確認してもらう。 「問題ない! 本当盛り上がるなぁ」  嬉しそうな時生。中学生の頃より生き生きとしている。見ているこちらまで嬉しくなってくる。 「そこで春樹、もう一つ提案がある!」 「今度は何?」  時生は僕が気付かない細かな部分を指摘してくる。今回ももう答えも用意しているのだろう。 「二段三段になった軍の呼称つけようぜ!」  確かにそこは考えてもいい場所だ。二段三段と呼んでも今ひとつ没入感がない。 「時生はどんなの考えているの?」 「ふふ。二段を速軍、三段を最速軍って呼ぶのどうだ?」 「いいね。大きくなれば速くなる軍か。流石時生だ。それでいこう」 「春樹のためなら、いくらでもアイデア出すよ。絶対成功させたいし!」  おそらく熱量でいったら、僕より時生のほうが高い。考案者は僕なのに、時生は我が事のように動いてくれる。時生は僕の考えたボードゲームだと譲らないだろうが、カレンダーは僕と時生で作ったボードゲームだ。そこは僕も譲れない。そこで言い争う気はないので黙っているが、僕も感慨深い。 「それと春樹、今日は帰りなよ。ここんとこずっと俺んちにいるだろう? 両親も心配するだろうから今日はさ」 「そうしたら作業が時生一人になるじゃん?」 「問題ないよ。春樹が木材をちゃんと切ってくれたから、あとは俺の作業だけだし、まだ日にちはあるから。俺は春樹の両親に心配かけるほうがイヤだからさ」 「そうか。そうする」  僕は立ち上がり時生に拳を向ける。時生は僕の拳に拳をくっつける。 「相棒、あんまり無理するなよ」 「春樹もな。今日は早く寝ろよ。勉強もしろよ」  お互いに笑い合ってから僕は時生の家をあとにする。帰宅後、両親に時生の家で何をしていたかを話すとお母さんが泣いて喜んでいた。 「良かった……。また仲良しに戻れて……」  少しだけ切なくなった。僕らは色んな人に心配をかけていた。お互いの両親もさくらたちも。きっと他にもいるのだろう。雨降って地固まる。そんな言葉が僕の脳裏を過った。  その翌日から学校とその近辺で僕らはビラを配る。駒と算段盤の仕上げにかかっている時生を外して僕らは懸命に声をかけた。 「僕らが考えたボードゲームを見てください!」 「一度遊んでみてください!」  この行動でこの先の人生が変わる訳じゃないだろうが、目の前にある乗り越えるべきものに背を向ける理由はない。僕らは高校生なんだ。熱量だけで動ける。  それぞれにできることをやり、ついにカレンダーお披露目のイベント当日が来た。
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