算段

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 その日までに時生は三つの算段盤と簡易版の算段盤を七つ。駒は十セット用意した。前日にみんなで学校に運び、先に先生たちに遊んでもらった。会場となる空き教室も用意してもらい、僕はあらかじめ黒板にルールと呼称を書いていた。軍帥。軍。算段盤。速軍。最速軍。勝ちどき。時生と一緒に作り上げて、さくらたちと学校の近辺に宣伝しまくったカレンダー。きっとみんな気に入ってくれる。  当日は他の生徒が飲み物や食べ物も販売する。学校側のバックアップがあって、ミニサイズの文化祭みたいだ。  使う教室は一つ。僕らは実際にカレンダーで遊んでもらう方々に分からないことを直接教えられるようにあえて教室を一つにしてもらった。校長先生とかは僕が挨拶したほうがいいんじゃないかと言ったがそれは断った。僕に時生みたいな胆力はない。変に堅苦しいのも嫌いだし。 「始まったね」  六月中旬の土曜日。午前十時。イベントは開催されて一般人と生徒に対して入場が許可された。始まったねと言ったさくらの顔はワクワクしているが、僕は内心不安でいっぱいだった。僕が考案したボードゲームは受け入れてもらえるのか?  そんな不安を感じ取ったのか会場の教室で外を見る僕の肩を時生が叩いた。 「大丈夫だ。絶対大丈夫だ」  それは時生自身に言い聞かせているのだろう。僕らは主宰者だ。不安になるのは致し方ない。 「そうだね。はじめよう」  何人かの生徒が飲み物を手に教室に現れた。 「これかぁ! カレンダーだって! やってみよう!」  竜太と隼人が席に案内する。 「一組一ゲームです! 終わったらまた最後尾に並んでください! それさえ守ってもらったら時間内は何度もできますので!」  親子連れの一般人も他校の生徒もいる。僕と時生の両親も一緒に訪れてくれた。 「これが春樹と時生が作ったゲームかぁ」 「毎晩集まって、これ作ってたのね。全く妬いちゃうなぁ」  時生のお母さんの冗談にみんな笑っている。 「お父さんお母さん、やってみて」  僕は僕の両親を促す。時生もおなじことをしている。お互いに両親にルールを教える中、僕と時生は一瞬目があった。アイコンタクトだ。仲直りして良かった。言葉にしなくても分かる。お互いにそれを言いたかったんだ。 「勝どきだぁ!」  そんな言葉が教室を行き交う。十時から十六時まで、何人もの人がカレンダーで遊び、顔見知りでもなかったカレンダー猛者が勝負をはじめたり、幼い子は幼い子同士で勝負をはじめたりする。カレンダーを考えているときは思ってみなかったが、カレンダーが人の絆を繋いでいく。  十六時のイベント終了後、僕らはクタクタで五人揃って椅子でのびていた。その中、校長先生が教室を訪れてくれた。 「春樹くん、一戦いいかな?」 「僕? 僕は多分時生より強くないですよ?」 「いや。君がいい。カレンダーを考案した君と勝負しながら語りたいんだ」 「春樹、やりなよ」  時生に促されて僕と校長先生はカレンダーを間に挟んで腰をかける。  僕の一手。一番端の後ろの軍を前の軍に重ねて速軍にする。  校長先生は反対側の軍を前に出して速軍にした。
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