算段

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 急いで弁当を平らげて立ち上がる。 「春樹、どこ行くんだよ?」 「時生のいないとこ」  時生の顔を見ずに歩き出す。もう勘弁してほしい。高校でまで、あんな気持ちにはなりたくない。時生には劣等感なんてないだろうが。 「許さない……」 「は?」  つい振り返ってしまった。許さないって何だよ。 「春樹が俺のいないとこに行くなんて絶対許さない。春樹には絶対俺が必要なはずだ!」 「馬鹿か? 時生のせいで僕は変な噂立てられたんだぞ? それでよくそんなこと言えるな!」  叫んだせいで中庭に面した窓から人の顔がちらほら見える。目立ちたくないというのに。 「俺は間違ってない! 春樹は絶対に才能のある奴なんだ! それが開花するまで俺は絶対春樹を逃さない!」  こいつは……。僕にはなんの取り柄もないと分かっているだろうに。 「そんなものはない! 時生は僕に期待しすぎだ!」 「嘘だ! 色んなことを考える春樹に才能がない訳ないだろ! 春樹は春樹を卑下しすぎだ! 俺が鬱陶しいと思うんなら何か作り出してから言えよ!」  本当に何なんだよ。窓から見える顔は増えていく。どうにかして収めないと。 「分かった。何か作り出したなら諦めてくれるんだな? 約束するな?」 「ああ。二言はない」  そんな台詞を使う奴、本当にいると思わなかった。 「とりあえず今は放っといてくれ」  再び時生に背を向けて歩き出す。 「春樹は絶対できる!」  暑苦しい。そういうとこだよ。熱意とか情熱とかで人を動かそうとする。そういう所が嫌いなんだよ。  放課後、僕は机に齧りついて頭を抱えていた。人の噂の駆け巡り方は激しいもので、昼にしていた喧嘩が痴話喧嘩であると校内を駆け回った。人目を避けるように高校生活を満喫していたのに、話したこともないクラスメイトからやたら声をかけられた。 「春樹くんって時生くんと仲良しなの?」 「時生くんっていつも春樹くん探しているよね?」 「春樹くんと時生くんって、何か特別な関係なの?」  うんざりだ。時生時生って。時生のことが気になるなら時生本人に聞けばいいじゃないか。僕を間に置いてクッション取る必要ないだろ?  返答は全て『時生に聞きなよ』で通した。それでも僕の気分を下げるには効果があった。  人のいなくなった教室で、バンッと机を叩いた。 「時生のせいで……」  何かしらを作り出さないと時生は納得しない。何を作り出すか。目の前の黒板を睨む。どうすればいいんだ?
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