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帰宅してからリバーシを取り出して一人リバーシを始める。中学の頃は時生とよくやっていたが、今は相手もいない。ただ一人でリバーシをしていると考え込むので時間潰しには最適だ。白も黒も最善手を考えながら、自分に何が作れるかと考える。パチパチと駒をひっくり返して最終的に白が二枚多く白の勝ち。
「さて、どうするか?」
ゲームといっても家庭用ゲームを作る知識は僕にはない。物語を作る想像力もない。造形物を作る器用さもない。はじめから手詰まりだとは思っていたが、改めて考えると本当に何もない。時生の言うように確かに空想は好きだが、それが何だっていうんだ。僕には何もないじゃないか。
「昔はノートに色々書いていたはずなのになぁ」
それは落書きやちょっとした四コマ漫画とか。何かネタがないかと昔のノートを引っ張り出す。
ごちゃごちゃとした落書き帳。時生と一緒にいたときは、こんな下らないことでも楽しく感じていた。ノートを開くと胸がずきりと痛むが、あくまでネタ探しのためだ。
気がついたら時間を忘れていた。十冊近くある落書きのノート。昔を懐かしむ柄じゃないのに、じっくりと読み耽っていた。
「あれ? これは?」
いつ書いたか分からないような稚拙な図面。どうやら僕は昔のどこかでボードゲームを作ろうとしていたらしい。
「これを直せば……」
だとしても、そうしてどうする?
時生に見せるためだけに作るのか? それでいいのか?
道筋は見えてきたが、その労力に意味はあるのか。そんなことを考えはじめてしまった。
ノートに書かれていた『三段』の文字。幼い僕の想像力の産物。いつ書いたか分からないものだが、時生ももう忘れているだろう。それだけでなぜか切なくなる。僕は、僕自身が昔を思い返すタイプじゃないと思っていたのに。どうしてこんなセンチメンタルな気分になるんだ。それもこれも時生が悪い。
「時生のせいだ……」
真新しいノートに手をつけて、三段を練り直す。
「全部、時生が悪いんだ」
呪文のように時生が悪いと繰り返す。そうでもしなければ、今やってる行動に意味なんかない。時生のせいで時生のためにやっている。そこは僕にとって譲れない境界線だった。
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