算段

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「時生くんが言ったのは何かを作り出せだよね? 春樹くんはもう色んなものを作り出しているのにね」 「僕は何も……」  結局逃げられないと判断する。褒めてくれるのは嬉しいが本当に僕は何も作り出していない。 「そんな訳ないじゃん? 中学のときの花壇のデザイン、春樹くんだよね? 私たちが中二のときの入学式の横断幕デザインしたのも春樹くんだよね?」 「僕は言われたからデザインしただけだ。僕に才能があった訳じゃない」 「そうかなぁ? 才能ない人に頼まないと思うけど? それに好評だったじゃん」 「それはそうだけど、あれは昔の僕がやったことであって今の僕じゃない」 「春樹くんの残念なとこは、そういうとこだよね。今の春樹くんを形成しているのは間違いなく昔の春樹くんなのに」 「でも……」 「春樹、話を進めよう」  竜太が話に割り込んでくる。 「俺らにアイデアがある訳じゃないけど、春樹が何かを作り出すとき、俺らは人員として手を貸す」 「まだ何も決まっていないのに?」 「時生じゃないけど、俺らも春樹は新しい何かを作り出すと信じている。それを間近で見たいんだよ」 「もう! 竜太も隼人も私が言いたかったのに!」 「さくらは今、推しとの会話を楽しんでいただけだろ?」 「竜太もそうじゃん」 「えっととりあえずありがとう」  感謝の言葉は出たが内心複雑だ。高校の三年間は大人しく一人で過ごそうとしていたのに周りが人が増えてしまう。そのきっかけが時生なのもやはり腹が立つ。僕のことなど何も分からないくせに期待だけはデカい。今、目の前にいる三人もそうだ。僕は何かに立ち向かったり作り上げたりする主人公適正の人間じゃないんだ。何かを作り上げたとしても失望されておしまいだろう。だが、もう逃げられない。仕方なくお弁当を開く。生姜焼きの乗っているマヨネーズに目がいく。一人でゆっくり食べたかったな。  その日からさくらたちは僕の周りをうろつき、三日ほど時生は僕に接触して来なかった。近くには来るのだけど声はかけてこなかった。それはそれで不気味だが、時生は実は僕が一人でいたのを気にしていただけなのだろうか?
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