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なんて思っていたが四日目の放課後、一人で校舎の廊下を歩いていると目の前を時生が通せんぼした。
「友達……できたのか?」
嫉妬でもしているのだろうか? 友達ができたことで余計なことをしなくて済むならば、それに越したことはない。
「多分ね。用はそれだけ?」
「いや。何かを作り上げることは進んでいるのか?」
「作らなきゃ時生は僕を自由にしてくれないだろ?」
「春樹はもともと自由だろ? 不自由なのは俺のほうだ……」
面倒な話になりそうだと、僕は時生の横をすり抜けるが時生は僕の歩みに合わせて隣を歩いてくる。
「俺は春樹といたら無敵だと思っていたんだ。まさか春樹が俺を避けるとは思わなくて……」
「自意識過剰じゃない?」
そうじゃないのは僕が一番分かっている。時生は自らの能力を誇示するような奴じゃないのも分かっている。
「そうかもな。でもイヤなんだ。春樹のスゴさは俺が一番知っている。俺の親友は春樹だけでいいんだ」
足を止め盛大にため息を吐く。
「僕に泣き言を言うために声をかけたのか? 時生は時生らしく自信満々でいろよ。時生は僕なんて必要ないから」
時生の腕が僕の左頬の横を通る。壁にぶつけられた拳はドンッと大きな音を立てた。
「俺が春樹を傷付けたのは自覚してる! でも春樹に拘るのはやめられない! 俺のせいで春樹の才能が死ぬのが俺には許せないんだ! 俺は絶対春樹を押し上げる! みんなが期待していた中学の春樹みたいに!」
何なんだよ。時生もさくらも。僕に何があるっていうんだよ。
空いている右側から時生の側を離れる。
「約束は約束だ。何かを作り上げることはやるよ。でもね、時生は期待し過ぎだ。過剰な期待は相手を潰すこともあるからな」
それは僕自身が思っていること。きっと時生は僕のせいで才能を潰している。素晴らしい彫刻の才能があるのに、時生自身も彫刻をやめている。間違いなく僕のせいだ。
「俺は……、お前を潰す気なんかなかった……」
知ってるよ。時生の言葉に答えず僕は歩を進める。時生に悪意などないし、版画も僕を喜ばすために彫ったのも知っている。でもね時生、世の中は僕らを中心に回っている訳じゃないんだよ。
時生が後ろからまだ何か言っているが聞かないことにした。僕が今やらなければならないのは何かを作り上げることなんだろう?
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