算段

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 帰宅後、また机に齧りついて三段を練り上げる。ただ思い付いたアイデアを書き殴ったノートを参考にしながら。これを考えたのは中学生の僕だろう。十八個の駒は前後左右斜め一つずつ進める。これの特徴は駒を三段まで重ねられるところだ。駒を二段重ねると前後左右斜め二つずつ進める。三段なら三つ。重ねられるのは三段まで。アイデアはいいと思う。ただ、勝敗をどのように決するか? みんな同じ駒であるのだから、勝敗のルールを考えるのは骨が折れる。  ターン数を決めたならば、攻める必要性がなくなる。駒を全部奪うのは、ほとんど不可能だ。十八個ある駒を全部重ねれば駒は六個しかなくなる。改良点は沢山ある。それなのにどうにも気分が乗らない。僕は何をしているのだろう? やると決めたけれども、これが本当に僕のやりたいことなのだろうか。  時生の言うように僕は考え事が好きでそれを形にするのも好きだった。中学生のときにそれができたのは、みんなが喜んでくれるからじゃなく僕自身が楽しかったからだ。今の僕は楽しんでいるのか? こんな義務みたいな創作をして何か学びはあるんだろうか?  堂々巡り。三段に手を付けてから、そんな想いばかりしている。手は進まないというのに昔のことを思い出してしまう。この三段もおそらく時生との雑談の中で生まれたはずだ。思い返してセンチメンタルになる僕が本当にイヤだ。いつまでも僕に拘る時生もイヤだ。 「時間は進むんだよ……」  戻りたくないと言ったら嘘になる。頭を切り替えるために口に出して言ったが更に切なくなるだけだ。誰かの力を借りたい。知恵を借りたい。僕が気付けない抜け穴は必ずあるはずだ。さくらたちに相談するか? そう思った瞬間、脳裏に時生の顔が思い浮かぶ。 「何なんだよ……」  知っているんだよ。僕の一番の理解者は時生で時生の一番の理解者は僕だって。ただ認めたくない。逃げてるというのが正しいかも知れないが、イヤなものはイヤなんだ。  夜十一時までうだうだと考えていたが結局良い考えは浮かばず、内容をあまり明かさずにさくらたちに相談してみることにした。できればその役目は時生じゃないほうがいい。そんな判断だった。
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