算段

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「私には思いつかないな。そんなゲームほとんどしないし……」 「俺と隼人は将棋はできるけど、チェスはやんないし……。何言えばいいか分からないな」 「そうか……。ありがとう……」  期待していた訳ではないけど、やはり落胆してしまう。 「てかさ、そういうのは時生くんに聞くのが一番いいんじゃない? 中学生のとき、よく一緒に将棋やチェスしていたでしょ?」 「うん……」  それがイヤだから、さくらたちに聞いているというのに。この数日付き合って分かったが、おそらくさくらたちも僕と時生に仲直りして欲しいのだろう。仲直りも何も僕が意固地になって時生を避けているだけなのに。 「なんなら一緒に行ってあげようか?」 「いや。それはいいよ。もう少し考えてみる」  考えてみると言っても、考えてみても思いつかないから相談している訳で。残された選択肢は時生への相談しかない。どうせ今日もこちらから会いに行かなくても向こうから現れるだろうが。深呼吸。まずは授業に集中しよう。  三段のことは一旦忘れることにする。イヤはイヤだがそれしかないのだから、腹を括る時間が欲しい。それも短時間でないと完成が遅れる。もう一度深呼吸をする。はぁ。イヤだな。  昼休み。さくらたちに断りを入れて僕は時生とやり合った中庭でお弁当を開いた。大人しく時生のクラスに会いに行けばいいのに、僕は拗らせている。ここにいれば時生が見つけてくれる。そんな気がしたから。  白米を口に運んで沢庵を口に運ぶ。来なければそれで諦めはつくだろうが、やはり時生というべきか。時生は普通に現れた。 「一緒に食べていいか?」 「……好きにすれば」  了承を得た時生は、僕の隣に座る。コンクリートの地面に腰を下ろすのも抵抗がないようだ。昔は草むらを転がったりもしたけど、もう高校生だ。 「なんか心境の変化あったか?」  時生は弁当を開きながら嬉しそうな声をあげる。 「別に。時生からの課題出されているのに避けることがおかしいだろ?」 「ふうん」  時生は、お弁当の焼鮭から手を付ける。言わなきゃ。水筒の麦茶をこくんと飲み込んで僕は覚悟を決める。 「今、ボードゲームを作っている。ただ手詰まりしている。ルールがなかなかな決まらない」 「へぇ。楽しみだな」  時生は白米を頬張る。相変わらず一口の大きい奴だ。 「将棋やチェスのようなゲームだが、全ての駒が同じ動きができる。ただ、それだと勝敗の決め方が分からない」 「へぇ。だったら将棋やチェスみたいにキングを作ればいいじゃんか?」 「そんな簡単に……」 「なんか間違っているか? それで解決しないのか?」 「解決するけど……」  その案は僕も考えた。それで将棋やチェスと差別化をはかれるかどうか不安だったのだ。 「春樹は考え過ぎだな。将棋やチェスが勝敗決しやすいのは玉やキングがあるからだ。それに近いゲームを作るなら、似ていようがそのルールは採用すべきだ。で、どんなゲームなの?」  楽しそうな声につい時生の顔を見てしまって、すぐにそっぽを向いた。  何だよ。僕と話しただけなのに無茶苦茶嬉しそうな顔をしている。 「それはまだ内緒だ」 「そっかぁ。でもさ将棋やチェスみたいなゲームだったら、駒のデザインは俺にさせてくれよ! カッコいいの作るから!」
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