16人が本棚に入れています
本棚に追加
並んでいた水道が空いた。豪快に蛇口をひねり、豪快に水を顔にかける。このまま体中にも水をかけたい気分だったが、水浴びするには少々時期が早い。少々どころではなく、かなり早い。
首にかけていたタオルで顔を拭き、次に順番待ちしていた人にその場をゆずる。そしてタオルから顔をはなしたとき、目に入ったのは児玉だった。
「組長さあ、最近、俺に冷たくない?」
「もともとこういう性格だ。悪いか」
「悪くないけどさぁ。麗子さんと俺に対する態度が全然違うじゃん」
「当たり前だ。麗子さんはレディだからな」
「うわ。男女差別」
「うっさい。さっさと練習に戻れ」
「冷たいなぁ。組長」
「ふん」
鼻息荒く、武道場に戻る。
同じ学年で同じ柔道部の田森くんは、「君たち、相変わらず仲が悪いね」と笑っていた。
失礼だな、田森くん。ただ仲が悪いわけじゃない。犬猿の仲なんだ。
と言ってやろうかと思ったのだけれど、言うだけ無駄なような気がしたので、そっと心の中に閉まっておくことにした。
お花見当日――。
私服でもいいという通達が出ていた。
最初のコメントを投稿しよう!