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授業が終わり、机に伏していた生徒達がもそもそと動き出す。まるでゾンビの軍団だ。復活して間もないにも関わらず、何人かはもう大声で笑い合っている。窓際の彼女は相変わらず外の景色を見ていた。真横で叫び声をあげるゾンビ達を気にもしていない。
彼女の名前は塚本けい子、高校一年から一緒のクラスだが、話はおろか挨拶も交わしたことがない。それは僕が陰キャラであることも理由の一つだろうが、それ以上に彼女の閉鎖的な性格が原因であり、クラスのほとんどが僕と同様に会話をしたことがないはずだ。
入学当初から彼女は目立っていた。青い目に茶色の髪、生徒達の中にまぎれようとも彼女の姿はすぐ分かる。常に無愛想な態度で他人と関わろうとしなかったが、その美貌から言い寄る男子は少なくなかった。
しかし、それも最初の体育の時間までだった。彼女の背中や太ももには無数の傷があったのだ。その噂は一気に広がり、女子はもちろん男子も近寄ろうとする者はいなくなった。
「おい、山田」
急に声をかけられ、体がびくんと反応する。廊下の窓から小笠原の顔がのぞいていた。
「びっくりした。急にやめろよ」
「美女に見とれていたのに悪いな」
「な、バカ。違うよ」
「おいおい、言い訳は見苦しいぞ」
そう言って彼はにやりと笑みを見せる。
彼は文芸部の同期であり学校で一番の友人だ。クラスに友人がいない僕にとっては数少ない話し相手だ。
「それよりビッグニュースがある」
「ビッグニュース?」
「小池が出た」
「本当に?」
「ああ。図書室で待っているぞ」
彼は言い終わらないうちに窓から姿を消した。僕も席を立ち、教室を飛び出す。
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