序章

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三話  あの日から上郷は、しょっちゅう俺に声を掛けてくるようになった。  面倒だからと無視すると、ほっぺをシャーペンでつついてくる。 「優希〜、そんなに勉強して何が楽しいんだよ?」 「お前マジで・・・辞めろよ」 「なんで?」  本当に分かっていないのか、笑顔で首を傾げる柊弥の姿に思わず顔が歪んだ。 「お前に構う暇は無いんだ。あっちに行ってろ」 「・・・・・・・・分かったよ」  上郷と話そうと様子を伺っているクラスメイトを指して、背中を押す。  定期テストが迫っているこの時期に、この手の嫌がらせは鬱陶しいことこの上無い。  適当に手を払ってあっちに行けとジェスチャーをすれば、上郷はそれ以降話掛けて来なかった。  あれから二週間くらいが経った。  相変わらず上郷は俺に声を掛けてくるが、鬱陶しそうにすれば楽しそうに別の奴の所へと行った。  今日は先週行った定期テストの返却日だ。  放課後に一人教室に残ってテストの結果を見る。 「ッ・・・・・・! 嘘だろ・・・?」  俺は思わず、結果が記された用紙を机に叩きつけた。  いつも1の数字が記されていたその場所には、2という異例の数字があった。 「クソッ・・・今更ライバルが現れたのか・・・?」  髪の毛を掴んで、頭を抱える。  今回は手応えもあった。多少邪魔は入ったが、いつも通り順調だったはずだ。  小学生の頃から、いや、もっと前からずっと一位を独占してきたというのに、どうして・・・・・・。 「流石上郷グループのお坊ちゃんだな。顔も良くて頭も良いとか敵わねぇわ・・・・・・」 「転入早々学年一位はマジですげえよ。柊弥に出来ないことってあんのか?」 「あはは、そんなに大した事じゃないよ」 「・・・・・・・っ、」  その時、廊下から話し声が聞こえた。  勢い良くそちらに視線を向けると、上郷と数人の男子生徒の姿が目に入る。 「あいつが学年一位、だと・・・・・・?」  その声は段々と遠のいていき、やがて消えた。  静寂の中、さっき聞いた会話の内容が何度も何度も脳内を駆け巡る。  上郷が何気なく言ったであろう『大した事じゃない』という言葉は、俺の神経を逆撫でた。  あれだけ俺に構って、他の奴らともつるんでいたというのに、朝から晩まで常に勉強していた俺を差し置いて、学年一位を取った。  その事実を叩きつけられ、俺は今までしてきた努力を否定されたような気分になった。  次第にそれは怒りに変わり、屈辱となって、上郷に対する対抗心へと変わった。  次は絶対に一位を取る。  すぐに俺の座を取り返してみせる。  そう決意した瞬間だった。
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