序章

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一話  気に入らない奴がいる。  俺は昔から一位を手にしてきた。  そうなるように、努力してきたつもりだ。一度たりとも慢心したことは無い。  しかし、才能を持った人間の前では、  俺みたいな凡人の努力など全く意味を成さないのだと思い知った。    中学二年生の夏。  一番後ろの窓側の席で、窓からやってくるそよ風にあたりながら勉強をしていた。  まだ授業が始まる前で、同級生の会話がノイズとなって耳に入ってくる。  いつも通りの日常。  俺に声をかける人は居ない。それは俺が望んでいたことでもあった。  ただひたすら、目の前に広がる問題の答えを探し続けるだけで良い。  俺は誰よりも優秀になりたかった。  その日もいつもと同じで、先生が来て授業が行われるはずだった。  しかし、教室にやってきたのは一限目の国語を担当する教師ではなく、担任と一人の少年だった。  少年を見た女子達が、黄色い悲鳴をあげる。 「なにあの子!? めっちゃイケメンじゃん!」 「やばぁ! 芸能人とかじゃない?」 「連絡先教えてくれないかなー、めっちゃタイプ」  勉強の邪魔になるノイズが増えた。  とても勉強に集中出来る様な状況では無いので、注目の的となっている少年を見る。  髪を染めているのか地毛なのか、サラサラとした金色の髪が光を帯びて輝いていた。  日本人らしい黒色の瞳と、一瞬だけ目が合う。   「全員席に着け〜。今日は転校生を紹介する」  担任に促されて、少年は自己紹介をする為に正面へと向き直った。  自然と視線が外れる。 「はじめまして、俺は上郷柊弥と言います。仲良くしてくれると嬉しいです」 「「!!!」」  教室は一瞬にして静まり返った。  それは上郷が浮かべた笑顔のせいか、それとも上郷という苗字のせいか。  まあ、どっちもだろうな。  一拍遅れて、男女共に上郷を囲って騒ぎ始めた。 「お前もしかして、上郷グループの息子か!?」 「・・・・・・・ああ、そうだよ」 「ええ・・・! 嘘でしょ?! こんな時期に転校してくるなんて!」 「れ、連絡先教えてくれない・・・・・・? てか、私と友達になろうよ〜!」 「ちょ、待てよ。柊弥も同じ男の俺たちとつるんだ方が良いだろ?」 「お前筋肉スゲーな。何かスポーツでもやってんのか? サッカー部来いよ」  あっという間に、上郷はクラスに溶け込んだ。  最初から馴れ合うつもりなんて無かった俺は、心底どうでも良くて机に視線を戻した。 「・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・?」  問題集を解いていると、急に影が差した。  視線を感じて見上げると、さっきまで囲まれていたはずの上郷が俺の目の前に居た。
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