序章

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五話 「・・・・・・・・・・・・クソが・・・・・・」  結局、中学校を卒業する頃には、二位という文字は見慣れたものになっていた。  三年に上がってから明らかに身長にも差がついて、俺が上郷に勝っているものは何一つ無かった。  今まで順調だった人生が、上郷のせいで狂いだしたことは認めざるを得ないだろう。  友達を作らなかったせいで、卒業式では一人で立ち尽くすしか無かった。  俺には父親は居ないので、普通に考えれば母親だけでも来ることになるんだろう。  だが、どの家にも事情というものがある。  両親から花束を貰ったり、涙を流したりしている同級生達――そして、上郷の方を見る。 「柊弥! 一緒に写真撮ろうぜ!」 「また変な加工つけるなよなぁ〜」 「ははっ! もうしねーよ!」  上郷は相変わらず、引っ張りだこだった。  写真を撮り終えると、また新しい人が写真を撮るために列をなした。  人当たりの良い笑みを浮かべて、誰にでも優しい上郷の姿は、いつ見ても気に触る。  俺はこの無意味な時間が過ぎるのを、ただ一人で待つことしか出来なかった。  家に帰る人が増えてきた。  俺もそろそろ帰ろうかと思ったその時、金色の髪を輝かせた奴がやって来た。 「優希。俺に何も言わずに帰ろうとするなんて、少し薄情過ぎやしないか?」  ポケットに手を突っ込んだ上郷に、責めるような眼差しで見下ろされる。  まるで自分が猛獣に囚われた、小動物にでもなったかのように、錯覚しそうになった。   「っ・・・・・・」  ただ目の前に立っただけで、また俺はこいつに負けたのだという屈辱に襲われる。  無視して帰るという選択肢もあるというのに、足を動かすことが出来ない。 「クソッ・・・何なんだよお前は・・・・・・。俺達はそんな仲じゃないだろ?」 「あんなに必死に俺のこと見てたのに?」 「自意識過剰かよ・・・・・・」  にやりと意地の悪そうな笑みを浮かべる上郷から、顔を逸らす。  最後にこの憎たらしい顔を見て、この屈辱を今後の糧にしようと考えていたのは確かだ。  もうこいつと会うことは無いのだから、忘れないように脳裏に焼き付けておこうと思った。  こうやって、面と向かって直接話すことは望んでいなかったがな。  上郷は俺の頬に手を添えて、強引に前を向かすと、耳元で囁いた。 「またすぐに会おう。次は勝てると良いな」 「ッ〜〜!!! っ・・・の野郎ッ!!」  上郷は最初から最後まで癪に障る奴だった。
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