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来客を迎えて
その時、勘解由小路邸では、緑を抱いた真琴が、思わぬ来客を出迎えていた。
「緑くんはお気になさらず。ようこそ。県さん」
警察庁祓魔課広報課、県聡美は静かに頭を下げた。
客間に通された聡美は、ソファーに腰かけ、真琴を見据えていた。
聡美の身を慮る、真琴の声がした。
「傷の様子は、いかがでしょうか?」
「問題ありません。ありがとうございます。それと、こちらこそ、ご迷惑をおかけしました」
「こちらも問題はありません。ご主人のことは――」
死んだ夫が生きているような妄想にさいなまれていた女。
勘解由小路をして、残念なハイミスとか言われていた。
真琴にしては、まだまだ奇麗な人だと思っている。
「もう、平気です。現場に復帰も十分可能だと。カウンセリングはしばらく必要でしょうが」
「降魔さんが、とても気にしていらっしゃいました。永久に、降魔さんは貴女を見捨てません。それはお約束します」
「本当に、もういいんです。エバンス先生のことも。他の被検体の女性達は、全員が亡くなったと聞いています。私が生きていたのは偶然です。3年ほどの付き合いではありますが、あの人は、そういう、無益なことは一切しない人でした。おかげで、色々目が覚めました。もう、早く家に帰って、夫の食事を作ることもないですし。腐ってしまった食事を全て捨てて、改めてお墓参りをしました。ちゃんと、私はお墓のことを覚えていたんです。お墓でわんわん泣いて、改めて、あの人の分まで生き抜いて見せると、約束したんです」
そう。ゾーイ・エバンスという女の情報が、また。
真琴にとって、ゾーイ抹殺は確定事項であるのは間違いない。
自分のではなく、誰かの卵子と勘解由小路の精子を受精させ、代理母の如く平然と孕んでいるあの女を、許す訳にはいかなかった。
しかも、勘解由小路の言によると、もう生まれているという。
欲しかったのは、あの女の情報だった。
しかし、県を巻き込むのは気が引けた。
彼女なりの幸せを掴もうとしている女性を、恋敵抹殺に巻き込むことは出来ない。
実際のところ、ゾーイが勘解由小路と関係を持っていたのは、22年も前のことというのは事実だった。
これは、ほぼ言いがかりに近かった。
それでも、あいつは消す。真琴の内に、強い強い殺意があった。
戦って理解したのは、彼女の変異パターンだった。バジリコックの自分とは違う。
上体人形下体蛇形の、ラミアーだった。それも、極めて危険な。
今、勘解由小路はクール便で送られてきた、自身の左手を平然と繋げている。
左手を捨てなかったのは、悪意がないという意思表示か。
それでも、どちらが本物の毒蛇姫か、思い知るがいいゾーイ・エバンス。
不意に、剣呑な何かを感じて、真琴が立ち上がったのと、三鷹さんが現れたのが、同時に起きていた。
思わず、緑を抱く手に、力がこもった。
蛇の危機管理能力。家に、何かが来る。
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