魔王の顕現

1/1
前へ
/20ページ
次へ

魔王の顕現

 そして――その時、勘解由小路流紫降は、庭を包み込む爆炎を目の当たりにした。 「危ないなあ。ミサイルかな?一体誰が――あ」  傷1つなかった流紫降は、その理由に気付いていた。 「――雪さん?ああ」  流紫降を炎から守ったのは、夏の日差しを嫌がっていた、雪女郎の1人だった。 「雪さん。ありがとう。君が、僕を庇ってくれたんだね?炎を、冷気でかき消してくれたんだ。でも、ああ、雪」  真に守りたかった坊ちゃんを守り切った雪は、にっこり微笑み、姿を消した。  残った冷気の塊を見つめ、流紫降は沈黙していた。 「あああ!流紫降大丈夫?!――あ」  不味い。今まで激怒したことがない流紫降が、今。 「碧。何があった?」 「あ――多分、ミサイルだと――思う」  碧は、その場に跪きかけていた。 「羅吽――だな?つまらない時間稼ぎだったんだろうが、父さんの子が大きくなるまでの。――そうか。禍女の――あいつなのか」  恐ろしい、闇を纏った双子の弟の姿があった。  既に、駆けつけた鳴神以下、全ての家人は、流紫降に恐れをなし、平伏してしまっている。  碧がそうならなかったのは、流紫降の双子の姉という矜持があった、ただそれだけだった。 「いずれにせよ、あいつは僕の家族に手をかけた。絶対に許さない。碧、僕の側にいろ」  その時、大きな翼が、流紫降を包んだ。 「トキから連絡聞いて、すっ飛んで帰ってきた。お前は、そんな怖い顔をするなよ?流紫降。それは父ちゃんの役目だ」 「――父さん」 「ああ。お前等の父ちゃんだ。雪女郎のことは気にするな。守りたいお前を守って、奴は夏の日差しに消えた。それだけだ。また、冬には帰ってくる。あの冷凍おっぱいは、大事にしてやれ。きっと、いい家政婦になるから。碧も来い。抱いてやろう。おいで、俺達の初姫」  碧は、父親の胸に飛びついた。 「何やってんのよパパ。でも――カッコいいじゃない」 「まあ済まん。連絡が届かないとこにいてな?流紫降、怒るな。まだそこまで状況は最悪じゃない。愛しているぞ?俺達の大事な坊主」 「父さん。ありがとう」  流紫降は、父親の首に腕を回していた。 「ああ先生!ここにいたのね?!」  静也にお姫様抱っこされた私は、温羅を連れてここに帰ってきていた。 「大丈夫?家吹っ飛んでるわね?」 「化学合成された爆薬の匂いだ。それと――光忠の匂いが」 「ああお前等、ちょっとだけ待ってろ。今、家族の点呼しないと」 「坊ちゃま!」 「降魔さん!」 「ああ、トキと真琴も。緑は無事か?」 「はい。三鷹さんが頑張ってくれて。県さんも無事です」 「県はそっとしてやればいいのに。どうせ今、年下イケメンナースにご執心だ。ハイミスの恋を――莉里!ああよかった!」 「パパああああああああああああああああ!パパがいないと何も始まらないのよさ!」  飛びついた次女をぎゅっと抱き締めた。 「で、トキ、家の損耗は?」 「崩落したのは図書室と、オーディオルームのみでございます。お家の生き物、全て健在にて」 「ああ全く、暇な奴だな羅吽ってのは。最初から、あんな不肖の子供なんか追ったりせんのにな?ただ、夏休みに入って、家なし一家になっちゃったなあ。トキ、あの家に移るぞ?掃除は済んでいるか?」 「いかさまでございますが、――あのお家に?」  トキは、言葉を渋っていた。 「降魔さん降魔さん、あの家とは?」 「ああ真琴、お前も勘解由小路家の妻なら、把握しておいて損はないぞ?家族全員集合。円陣を組もう。鳴神とトキも来い」  真琴が、双子が、莉里がトキが、鳴神が、円陣を組んで頭を寄せた。  ああ♡坊ちゃまの匂い♡  何と(かぐわ)しや。流紫降様の匂い♡  トキと鳴神は、無駄にドキドキしていた。 「これしきのことで、うちには何の害もないことを証明してやる。一家で引っ越しだ。俺が生まれた家に。――道玄坂の勘解由小路家に」  そう。私が温羅を得た時、先生の家は失われていた。  そして、これから始まるのだ。  魔上皇の遷居(せんきょ)が。 了
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加