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魔王の顕現
そして――その時、勘解由小路流紫降は、庭を包み込む爆炎を目の当たりにした。
「危ないなあ。ミサイルかな?一体誰が――あ」
傷1つなかった流紫降は、その理由に気付いていた。
「――雪さん?ああ」
流紫降を炎から守ったのは、夏の日差しを嫌がっていた、雪女郎の1人だった。
「雪さん。ありがとう。君が、僕を庇ってくれたんだね?炎を、冷気でかき消してくれたんだ。でも、ああ、雪」
真に守りたかった坊ちゃんを守り切った雪は、にっこり微笑み、姿を消した。
残った冷気の塊を見つめ、流紫降は沈黙していた。
「あああ!流紫降大丈夫?!――あ」
不味い。今まで激怒したことがない流紫降が、今。
「碧。何があった?」
「あ――多分、ミサイルだと――思う」
碧は、その場に跪きかけていた。
「羅吽――だな?つまらない時間稼ぎだったんだろうが、父さんの子が大きくなるまでの。――そうか。禍女の――あいつなのか」
恐ろしい、闇を纏った双子の弟の姿があった。
既に、駆けつけた鳴神以下、全ての家人は、流紫降に恐れをなし、平伏してしまっている。
碧がそうならなかったのは、流紫降の双子の姉という矜持があった、ただそれだけだった。
「いずれにせよ、あいつは僕の家族に手をかけた。絶対に許さない。碧、僕の側にいろ」
その時、大きな翼が、流紫降を包んだ。
「トキから連絡聞いて、すっ飛んで帰ってきた。お前は、そんな怖い顔をするなよ?流紫降。それは父ちゃんの役目だ」
「――父さん」
「ああ。お前等の父ちゃんだ。雪女郎のことは気にするな。守りたいお前を守って、奴は夏の日差しに消えた。それだけだ。また、冬には帰ってくる。あの冷凍おっぱいは、大事にしてやれ。きっと、いい家政婦になるから。碧も来い。抱いてやろう。おいで、俺達の初姫」
碧は、父親の胸に飛びついた。
「何やってんのよパパ。でも――カッコいいじゃない」
「まあ済まん。連絡が届かないとこにいてな?流紫降、怒るな。まだそこまで状況は最悪じゃない。愛しているぞ?俺達の大事な坊主」
「父さん。ありがとう」
流紫降は、父親の首に腕を回していた。
「ああ先生!ここにいたのね?!」
静也にお姫様抱っこされた私は、温羅を連れてここに帰ってきていた。
「大丈夫?家吹っ飛んでるわね?」
「化学合成された爆薬の匂いだ。それと――光忠の匂いが」
「ああお前等、ちょっとだけ待ってろ。今、家族の点呼しないと」
「坊ちゃま!」
「降魔さん!」
「ああ、トキと真琴も。緑は無事か?」
「はい。三鷹さんが頑張ってくれて。県さんも無事です」
「県はそっとしてやればいいのに。どうせ今、年下イケメンナースにご執心だ。ハイミスの恋を――莉里!ああよかった!」
「パパああああああああああああああああ!パパがいないと何も始まらないのよさ!」
飛びついた次女をぎゅっと抱き締めた。
「で、トキ、家の損耗は?」
「崩落したのは図書室と、オーディオルームのみでございます。お家の生き物、全て健在にて」
「ああ全く、暇な奴だな羅吽ってのは。最初から、あんな不肖の子供なんか追ったりせんのにな?ただ、夏休みに入って、家なし一家になっちゃったなあ。トキ、あの家に移るぞ?掃除は済んでいるか?」
「いかさまでございますが、――あのお家に?」
トキは、言葉を渋っていた。
「降魔さん降魔さん、あの家とは?」
「ああ真琴、お前も勘解由小路家の妻なら、把握しておいて損はないぞ?家族全員集合。円陣を組もう。鳴神とトキも来い」
真琴が、双子が、莉里がトキが、鳴神が、円陣を組んで頭を寄せた。
ああ♡坊ちゃまの匂い♡
何と芳しや。流紫降様の匂い♡
トキと鳴神は、無駄にドキドキしていた。
「これしきのことで、うちには何の害もないことを証明してやる。一家で引っ越しだ。俺が生まれた家に。――道玄坂の勘解由小路家に」
そう。私が温羅を得た時、先生の家は失われていた。
そして、これから始まるのだ。
魔上皇の遷居が。
了
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