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禍女の皇
ああああ!ああ!っあ!また?!
東雲光忠の悲鳴が聞こえていた。
「それめっ!だよ?!言ったじゃないか!そのシール勝手に剥がしちゃ駄目だって!ああもう!羅吽この子何なのさ?!凄い勢いで大きくなっていってる!ああ駄目だよそれ僕んだぞ?!」
大事に取っておいたシールを勝手に剥がされて、ノートにベタベタ貼られたり、焼きそばを勝手に食べられたりしていた。
「あああ!僕の焼きそばだぞ?!羅吽!赤ちゃんて焼きそば食べるの?!」
「成長が、異常に早いのは聞いていた通りだ。爬虫類の子供は、ミルクを飲んだりはせんか。焼きそばのお代わりなら、今作ろう。待っていろ」
「壊しちゃった、僕のプレステは?起きたら、こうなってた」
分解された、プレステ5の残骸を見せていた。
「生まれて数週間足らずでもう機械の分解か。恐ろしい知性の発達だ。光忠、この娘から目を離すな。気が付くと死んだりしかねん」
ううう。光忠は唸った。
「プレステか。焼きそばのあとで買いに行ってやろう。何か欲しいものは?」
光忠は、笑みを浮かべて暴れ回る赤ん坊を抱いて、ポツリと、
「スイッチで遊べる――可愛いゲームがいい」
そう言った。
この子は、一体。
ある日、羅吽が連れてきた赤ん坊だった。
「迂闊な名前などつけるな。名は人の魂を縛る。闇の女帝には、相応しい名が必要だ」
羅吽はそう言っていたけど、この子が、闇の女帝なのかな?本当に。
円な瞳がキラキラしている。凄く可愛い赤ちゃんだけど、全然僕の言うことを聞かないし。
「あー。ああああー」
「うわ!もう喋るの?!」
「にゅうー。にー。にー」
「うわあ!」
光忠は、赤ん坊を抱いたまま、ひっくり返っていた。
赤ん坊を、ぎゅっと抱きしめた光忠は、
「僕には、お父さんもお母さんもいないし、お兄ちゃんは死んじゃった。僕は、独りぼっちで、それでも、君は、僕を?」
にー、にー。て言っている赤ん坊を、光忠は見つめた。
「決めた。君は――夜子。東雲夜子。僕の妹だ」
ふと芽生えた、光忠の心根は、多分、彼なりの、愛だった。
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