タニシとフナ

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タニシとフナ

 私が降り立ったのは、利根川の支流の三日月湖だった。  勘解由小路が何かしたのか、他に誰もいなかった。  鬱蒼と生えた雑草。川石の残骸、沈んだテトラポット、それと、誰かが違法に取り付けたヘラ台があった。  場の形状は、三日月湖で、恐らく支流なのだが、実際沼単位では川とは繋がってはいなかったが、地下で水脈は繋がっているようだった。  幅は広くて約10メートルほどで、東西に伸びている。ちょっとした、うなぎの寝床のような沼だった。  水質は、意外にもクリアーだった。逆にクリアーすぎるが故に、今は、水面を藻が延々と覆っている。  埼玉県方面の向こう岸には、コンクリート土台の、赤い鉄塔が立っていた。 「おー。着いたぞ?六反(ろくたん)な?群馬じゃ有名なバススポットだ。懐かしい。体が普通の頃、休みによく行ったなあ。ベビーザラでも投げるか。リアにブレード移植した、キールヘッドベビザラを藻のポケットに」  ああそうですか。藻が茂りすぎて投げるとこないですけど。あ、霊的な何かの気配が。  ブクブクとした泡を立てて、何かがピョンピョン這い上がってきた。 「人だ!人でガス!」  は?フナの格好した侍?ってか逆か。 「総員!かごめかごめフォーム!」  大量に湧いたフナ侍が、私の周りをグルグル回り始めた。 「帰れー。かーえれー」 「帰らねえならオサ呼ぶでガスー」  何この平和な霊現象。 「あれだな、山人くらいならそれで帰っちゃうな。夜釣りで怖さ倍増してるし」  現に、某山人は過去それを食らって、泡を食って逃げていった。 「ねえ、ちょっと聞いてくれない?責任者って、いる?」 「あ!帰らねえ!じゃあ、オサを呼ぶでガス!」 「オサ!オサ!オサ!」  あれなの?ウリイイイイイイイイ!って奴なの?  あ?沼から、また何か出てきた。  ゆっくり這い出てきたのは、ズタボロの法衣を纏った、乞食坊主風のおっさんだった。 「出ーたーぞー。わーが姿にー、畏ー怖せーよー」  まためんどくさいのが。 「で?あんたは?」 「わーれーはー、ターニシだーいそーうじょーう」  タニシ大僧正の出現があった。 「ああ、責任者ってこと?私は百鬼姫なんだけど、私に従ってくれない?でないと、あんたを祓魔しなきゃならないんだけど」 「人ー風情がー、わーれを退治するーだとー?なーまむぎだいずーにしょうごんごーう」  あ、フナまで何かムカついてる。  ああもう面倒臭い。 「ちはやふる。八瀬の早瀬に湧きたるは、めんどい中略こい八瀬童子」  八瀬童子を勧請した。 「うぎゃああああああああ?!こいつ!陰陽師?!」 「勝てっこねえでガス!」  どうでもいいけど、何か、語尾が不快だこいつ等。 「あーあ。いきなりそういう手で行く奴があるか」 「うっさい!それが私のやり方よ!逆らう奴は打ち倒す!コーランか剣か!文句あるかタニシ?!」 「あああ!オサが!こもられてるでガス!」  でっかいタニシが、殻に引きこもっていた。 「オサ!儂等が死ぬでガス!南無大師遍昭金剛!」 「やかましい!手下になるか死ぬか、1秒で選べ!1!」 「おい。言うこと聞かんと、沼埋めるぞ?残らずかいぼりしたあとで」  ギャーギャー騒ぐフナの集団があった。
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