彼女、欲しい?

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「童貞ではないね」 「え⁉︎」 「あれ? 候は童貞?」 「ど、童貞だよ! 彼女いたことないんだから!」 変に誤魔化す方が余計にかっこ悪い気がして、俺は童貞を素直に認め、かっこ悪い台詞を叫んだ。 ていうか……何だよ、鏡ってばいつの間に彼女なんて作ってたんだよ。 そりゃあ、イケメンだし長身だし、有名人だし、性格だって若干の癖はあるものの根は良い奴だし彼女がいたっておかしくはないんだろうけどーー俺、彼女なんて見たことなかったし、何も知らなかったことが、少し寂しい……。 「彼女がいたなら、言ってくれても良かったじゃん……」 「彼女っていうか……。さっきも言った通り、報告するようなちゃんとした関係じゃなかったんだってば。何回か寝て、同意の元ですぐ別れたし」 「お、お前の口から〝寝た〟とか聞くの、やけに恥ずかしいな……」 友達とこういう話をしたことがないわけではない。ただ、鏡はもはや幼馴染みを通り越して兄弟の様な存在だから、下世話な話をする相手としては他の友人よりも気恥ずかしさがある。 すると鏡が突然、 「そう言えば今度の対局相手が、なかなか棋譜に癖のある人で……」 と話題を変えてきた。 普段、鏡自ら将棋の話をしてくることは、意外と少ない。 俺が気まずさを感じていることに気が付いて、わざと話を逸らしてくれたのだろう。 マイペースだけど、思いやりもある良い奴。 だから、彼女の一人や二人、そりゃあいたことあるよな……。 その後、食事が終わるまではこの話題をぶり返すことはお互いにしなかった。 しかし……入れ違いで風呂から上がり、リビングでテレビを観たりアイスを食べたりとそれぞれ過ごしている中、俺はどうしても、鏡の恋愛事情が頭から離れなかった。 洗面所で歯を磨き、再びリビングに戻ったところで、俺はソファに座る鏡に思い切って聞いてみた。 「あのさ……鏡の恋愛の話、やっぱりもう少し聞いてもいい?」 「え?」 「あ、嫌なら話さなくていいよ! ちょっと気になっただけだから……」 唐突に聞きすぎたかもしれない。鏡が今まで自分からこの話題を出さなかったのは、話したくなかったからかもしれないし……。 「いいよ」 「いいの?」 「候に聞かれて困ることなんて何もないから。今まで話したことなかったのは、特に聞かれなかったから自分からは言わなかっただけで、隠してたわけじゃないよ」 そうか。そう言ってくれるなら……。 ゆっくり話を聞こうと思い、俺は鏡の隣に腰をおろした。
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