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「えっと、じゃあさ。さっき言ってた〝一応付き合ってた人〟ってどんな人だったの?」
「どんな人かあ。うーん」
「あ、もしかして俺も知ってる子? たとえば、小中学校の同級生とか」
「いや。候は知らない人」
「そう……」
高校の時までは、鏡の知り合いは大抵は俺の知り合いでもあったから、学校関係で知り合った人ではないのかな?
まあ、そこまで詮索するのは良くないか。
「鏡と付き合ってたって、どんな女性だろうなー。想像つかないなー」
俺がそう言うと、鏡は何故か、困ったように軽く笑う。
「鏡?」
「ああ、ごめん。その……女性だと決め付けられてしまったから……」
「え?……あっ」
もしかして、斉藤君と同じで……
鏡も……。
「そ、そうだったんだ。全然知らなかった」
変な空気にならないよう、俺はなるべくいつも通りの調子でそう言った。
偏見なんてない。少し驚いただけだ。
「だ、大学の友達にも同性が好きだっていう人いるし、最近はよく聞くよな。珍しいことじゃないっていうか」
「そうかな」
「そっ、そうだよ!」
……ああ、なんか上手く言えない。
さり気なく伝えたいのに、変に力が入ってしまって、これじゃあ完全に不自然だ。
偏見なんてないはずなのに、こうして少なからず動揺してしまう自分もいる……。
すると、今度は鏡の方から口を開いた。
「あのさ、今から俺が何を話しても、引かない?」
「え?」
唐突に何を言い出すのだろうと思いつつも、俺は「う、うん! もちろん!」と答えた。
鏡が何を言おうとしているのかは全く予想がつかないが、鏡の言うことを引いたりなんてしないという自信はあった。
すると鏡はーー。
「じゃあ、候。目、瞑って」
「目?」
どういう意図だかさっぱりだったが、俺は言われた通りに目をキュッと瞑った。
すると唇に柔らかくて温かい感触をおぼえた。
まさか、と思ってバッと目を開けると、予感的中でーー鏡にキスをされていた。
「わあーっ⁉︎」
驚いた俺は、鏡の両肩を掴んで自分の身から剥がした。
「なっ、な、何で⁉︎」
何でキスした⁉︎こんな変な冗談するような奴じゃないだろ⁉︎
……ん?冗談でこんなことしないってことは……
まさか、本気のやつ?
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