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同居人
【続いてのニュースです。
昨日の◯◯杯オープン戦の決勝戦で、奥野 鏡四段が優勝し、昨年のオープン戦に続き二連覇を達成しーー】
電車に揺られながら、俺はスマホの画面をじっと見つめる。
勝敗は昨日の時点で本人から聞いたから知っていたけど、こうしてニュースで観ると、改めて実感するな〜。
最寄駅に到着して、スマホを鞄にしまいながら電車を降りた。
駅前のスーパーで夕飯の材料を適当に買って、エコバッグ片手に自宅へ帰る。
スーパーから自宅へは徒歩五分。駅近でもあり、そのうえ2LDKのアパートなので家賃は決して安くないけど、折半しているので寧ろお得に暮らせている。
「ただいまー」
中に向かって呼び掛けながら、玄関の扉を開ける。
鍵は開いていたけど、返事はなかった。
挨拶を無視するような奴ではないから、恐らく聞こえていないのだろう。
俺は奴の部屋の前まで行き、ノックしてから「帰ったぞ」と告げる。
それでも返事はなかったため、まさかまた飯も食わずに没頭して倒れてないだろうなと不安になり、
「開けるぞ」
と、一応宣言してからドアノブを回す。
「うわっ」
案の定と言うべきか。空腹で倒れているのかは分からないが、この部屋の主は床で死んだように眠っていた。
「おいっ、大丈夫かよ」
駆け寄って声を掛ける。と言っても、よくあることなのでこちらも取り乱すことはない。
「ん……あ、候。おはよ……」
「こんな所で寝るなって。起きるかベッドで寝るか、どっちかにしろよ。つーか、子供相手にならともかく、自分と同い年のいい大人にこんな至極当然な台詞はこっちも言いたくないだけど?」
それでも、この男は俺が言わなきゃどこまでもマイウェイを突っ走るし、逆を言えば俺の言うことならギリギリ聞いてくれる。
数秒後、のそっと上半身を起こしたこの男は、寝起きでフラッとしながらもそのままゆっくりと立ち上がった。
そして、俺に振り返ると「そうだ」と何かを思い出したようで、ニコッと口端を釣り上げてこう言った。
「冷凍庫にアイスケーキあるから一緒に食べよう」
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