お花見 桜餅は道明寺それとも長命寺?

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親たちが桜餅談議に花を咲かせる傍らで、女の子たちはおばあちゃん(涼子の母)が手作りした小豆入りのお手玉で遊んでいたが、そのうちあきてしまった。 弁当も食べ終わり、腹ごなしに少し歩きたい気分になった。 娘たちが屋台を見て回りたいと言ったので、母親たちも付き添うことにし、男2人は残ることになった。 たこ焼き、お好み焼き、ソバ、三色団子、りんご飴……、色々な食べ物の屋台が軒を並べていたが、4人の意識は「桜餅」という看板に一斉に引き寄せられた。 話題になっていたということもあるが、その屋台の主人と見受けられる男の風体に興味をそそられた。 年のころは30前後、紺の半纏に黒の股引、足元は草履といういでたちで、屋台の前に立つ様は江戸時代からタイムスリップしてきたようにも思えた。 沙織と涼子は同時にタンバリンを叩くようなタイミングで顔を見合わせ、ヒソヒソ囁き合った。 「あの人、芝居小屋から抜け出したみたい」 「昔見た時代劇に出てくる、飾り職人の○○にちょっと似てる」 「そうね、私も見てた。イケメンよね」 子供たちは、看板の文字を一所懸命読もうとしていた。 「関東の長命寺、関西の道明寺、どちらもあります」 寺の名前はよく読めなかったが、さっき母親たちの話に出てきた寺だと見当がついた。 「決め手は桜の葉。日本最古の桜の木から採った葉を使用しています」 小学3年の彼女たちにも、何となく意味は伝わった。 ここで売っている桜餅は、道明寺、長命寺の比較を超えて、それを包んでいる桜の葉にこそ特長があるということだった。 子供たちはねだるような面持ちで、母親を見上げた。 母親たちは昔見た時代劇の回想に浸っていたが、我に返って「桜餅、欲しい?」と子供たちに尋ねた。 沙耶と真由は「うん!」と大きく頷いた。 涼子と沙織は相談して、道明寺と長明寺をそれぞれ3個ずつ注文した。 子供たちと英吾にはクレープのような長命寺を、後の3人は道明寺というように配分した。
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