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片想いと幼なじみ
そもそもの始まりは、私の失恋だった。高校で出会った同じクラスメイトの真人君を好きになり、アタックを続けて徐々に仲良くなっていった。ワクワクドキドキするような片想い。いつか真人君の彼女になれたら──そんな恋心が、私を包み込むようになった。
しかし──現実はそんなに甘くはなかった。勇気を出して告白した、二人きりの放課後の教室。真人君から返ってきた言葉は、予想していたよりも残酷だった。
「咲良さん、ごめん──友達としてしか見れないかも」
自惚れていたわけではない。ただ、いざ言葉に出して断られると──心に深く突き刺さるものがあった。
「そ、っかぁ……そうだよね。恋人とは違うもんね」
「でも咲良さんといると楽しいし、これからはまた友達として
「ごめん真人君、急用思い出しちゃったから私帰るね」
「あっ、ちょっと咲良さん──!」
慰めが欲しいわけじゃない。心配がられて優しくされるなんて、冷たく突き放されるより遥かに傷つく。真人君の困った作り笑顔が、自分をより惨めにさせた。
いっそこのまま消えてしまいたい。そんな衝動に駆られ、真人君の制止を振り切って教室を飛び出した。
*
「はぁ……もう最悪」
あてもなく辿り着いたのは体育館の舞台袖。ここなら誰も来ないだろうと、逃げるように走り抜けた。
体の力が一気に抜ける。膝から崩れ落ちて、大きな溜め息が漏れてしまった私は──まるでダムが決壊したかのように泣いてしまった。
「こんなことなら……言わなきゃよかった……」
涙が音を立てて床に零れ落ちる。今はもう何も考えられない。"言わなきゃよかった"という後悔が、頭の中でグルグルと巡り続ける。
これからどう顔を合わせたらいいか──そんな気持ちで項垂れていたその時。誰もいないと思っていた背後から、聞き馴染みのある声が聞こえた。
「──咲良?」
「ひゃぁ!!」
誰も来ないと思って完全に油断していた。声のした方へ振り向いたら──幼なじみの都織がジャージ姿で立っていた。
「きゅ、急に大声出すなって……! こんなとこで何してんだよ」
「別に何でもいいでしょ! 都織こそ、何でこんなとこいんのよ」
「俺はダンス部の機材を取りに──てか咲良、目ぇ赤いけど泣いてんの?」
「……! ち、違う! これは違うから!」
しまった。涙は咄嗟に拭いたはずなのに……無駄に付き合いが長いせいか、ちょっとの変化でも気付かれてしまった。否定はしたけど、ほぼバレている。
「もしかして、好きな男にフラれでもしたか?」
「──!!」
「ははっ、咲良に限ってそれはないよな。そんな見る目の無い男いるわけ──って、アレ?」
そこまで言いかけて都織は言葉を止める。
悪気が無いのは分かっている。都織はそうやって励ましてくれる優しい性格。だけど──弱っている今の私には、少し厳しい言葉だった。
「……都織のバカ」
「ご、ごめん……まさか本当なのか?」
「うわぁー! 都織ぃー!!」
「わっ! ちょ、ちょっと咲良!?」
また涙が止まらなくなった。このまま俯くのも恥ずかしくなった私は、都織なら大丈夫だろうと思って勢いよく彼の胸に飛び込んだ。
「フラれた……フラれちゃったよ私……」
「大丈夫だ咲良──大丈夫。咲良の魅力に気付けない男なんて、こっちからお願い下げだよ」
「──また慰めてるでしょ」
「ちげーよ! 本当のことに決まってんだろ。何年一緒にいると思ってんだ」
「うぅ……都織ぃ……」
情けないとは思う。だけど今は、気の知れた優しい温もりに頼るしかなかった。ゆっくりと私を包み込む、幼なじみの両腕。ここに都織が来てくれなかったらと思うと、すごく心細くなる。
もう少しだけ、このままで──そう思って目を閉じた時。体育館の扉が開く音と共に声が聞こえた。
「都織せんぱーい! あれ、どこ行っちゃんだろ……」
幼なじみの名前が体育館に響く。どうやら、ダンス部の部員が来てしまったみたいだ。
「やべっ、後輩来ちゃった。ごめんな咲良、俺行くわ」
「あ、うん。部活頑張ってね」
身を委ねていた温もりから体をゆっくり離す。都織は笑顔で手を振った後、スピーカーとカメラを持って舞台袖から出ていった。その姿が眩しく見える。そりゃ機材取りに来ただけなのにこんな場所でモタモタしてたら心配させちゃうよな……と、自分で自分にツッコんだ。
再び一人になった体育館。だけど心なしか、さっきよりも寂しさは和らいでいた。
「ありがとう、都織──」
私もいつまでもクヨクヨしていられない。すぐには無理かもしれないけど、また立ち直って次の恋をすればいい。
そう自分に言い聞かせて、しばらく時間を空けて体育館をあとにした。
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