散りゆく花びらのように、堕ちて

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 しほりへ 明日、逢う前に僕の気持ちを君に伝えておきたい。   君が妻に知られぬように電話さえ気兼ねしていることが分かる。済まないと思う。  一昨日、君と会ったときの心のうちを記したい。そうしたら、決して不真面目な気持ちではないことを分かってくれると思うから。 店を閉めてから僕は約束の場所に急いだ。いつもの、あの桜並木に。 辺り一面に花びらがはらはらと降り落ちてきて、僕は思わず手のひらを差し出して、ひとひらの花びらを受け止めた。 僕はその花びらを愛おしく見つめた。 この花びらは君だ、そう思って。 だけど、風がその花びらを飛ばしていった。 花びらは風に乗って見えなくなってしまった。 急がなくちゃ。 儚いあの桜の花びらのように君はいなくなってしまう。 違う、君は待っている、きっと。 この僕と同じように、眠れぬほどに思いつめて、待っているはずだ。 その時、僕は初めて二人が結ばれた夜のことを思い出していた。 薄暗い室内に浮かびあがった君の白い肌。首筋から肩のラインが美しく、僕は息を呑んだ。 僕は愛おしくって君の身体をゆっくりと、指で、唇で、なぞっていった。 この指が、 この手が、 僕の体のすべてが、    君を覚えている。 柔らかな君の肌を覚えている。 優斗さん、と僕を呼ぶ君の可憐な声が耳から離れない。 僕の心が君から離れられないんだ。 僕は桜並木の君の元へと急いだ。 これが僕の心だ。 僕はいつも君を想っているんだ。初めて君を見た日から、ずっと。 自分でもこんな風になってしまった自分を信じられない。 自分の気持ちを抑えられると思っていたのに。 こんなことになるなんて。 僕たちはずっと一緒なんだ。君と離れない、離れられないんだ。 僕たちの愛は朽ちないよ。 僕はもうどうなってもいい。 散りゆく花びらのように、君と堕ちていきたい。 明日の夜、ゆっくりと話をしよう。
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