散りゆく花びらのように、堕ちて

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 病院に着き、時間の経過とともに、貴方を撥ねた車を運転し、自ら電柱に激突したのが、貴方の奥さまだったと知りました。私は驚き声も出ませんでした。  そして、貴方は即死状態だったことを知らされました。奥さまは救急車で病院に着いた後、すぐに亡くなられたとのことでした。  後日、奥さまが相談していた友人の話というのが私の耳にも入って来ました。   貴方と私の何もかもを奥さまはご存知だったとのことでした。   ときおり店に顔を出す奥さまは、理知的な美しい方に見えました。  その奥さまが知っていた……。どれほど辛い思いをしていたか……。申し訳なさに胸が締めつけられ、息が苦しくなりました。  あの日、奥さまは貴方の跡をつけたのでした。  奥さまはなぜ、私ではなく貴方を選んだのか……。  そしてなぜ、私の目の前まで来て自ら死を選んだのでしょうか──。  どうして私を殺さなかったのでしょうか……。  でも、それこそが、私にとって最も辛いことだったのです。  それを考えたうえでの復讐だとしたら……。  奥さまの心の中をふつふつとたぎる感情が臨界点を超えて溢れ出したものだとしたら……。    貴方には何も知らないふりをして、一人で悩み苦しみ地獄のような日々を送っていたのではないのでしょうか。    もし、あの日、貴方が奥さまの車で轢き殺されなかったら、私は貴方の持っていたナイフで刺されていたのかもしれません。  もう少しだけ早く貴方と逢っていたら、そうしたら奥さまは罪を犯さずに済んだのでしょうか。  いえ、初めから私が軽率な行動をしなければ、貴方の誘いにのったその先を深く考えたのなら……。  奥さまも貴方も私も苦しまずに済んだことなのです。  二人の命が失われずに済んだことなのです。  私は警察から事情を聞かれはしましたが、私にはなんのお咎めもありませんでした。  すぐに両親の知ることとなり、直ちに私は東京から母の妹の住む大阪の家に行くことが決まりました。大学も辞めました。  私は、呆然と、ただただ両親のいうことに従っていました。正直、その頃のことを私は上手く思い出すことができないのです。  まるで悪い夢を見ているようで、感覚が抜け落ちている感じだったのです。  大阪の叔母の家でお世話になり、働いてお金を貯めてから、一人で住むところを見つけました。
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