新人研修

　俺の勤め先のホテルに入ってきた新人。その研修を任されることになった。
　キラキラした目で、一流のホテルマンを目指すのだと語る新人。そいつを連れて我がホテルを一通り練り歩く。
「うちはちょっと色々あるホテルで…まず、最上階のこの部屋。見ての通りここはスイートルームで、宿泊予約が入ることはあまりない。でも、無人なのにしょっちゅうフロントに内線がかかってくる。
　ちなみにこの部屋は、同じ階にあるスイートの中で一番眺めがいいから、どうせスイートに泊まるならここを…と指定するお客様が多いが、なるべく、すでに予約が埋まっていることにして他の部屋を勧めるように」
　こんな感じで、色々と問題があるとされている部屋や場所を回り、何が起きるかとその対処方法を教えていった。
　途中から、あからさまに新人の目が曇っていくのが判ったが、それでも、これを覚えていかないことには、ここでは働けないんだよな。
「ありがとうございました」
　研修初日の『当ホテルいわくつきポイント案内』。それを終えた後、新人は俺に礼を告げたが、その声色に最初の弾んだ様子はなかったよ。
　一日かけて、このホテルで一番知らなくちゃならないことをまず教えたけれど、あの新人、多分明日から来ないだろうな。

新人研修…完