どっち

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 皆が嘘しか言わない世界で、どうしてエイプリルフールなんてものがあるのだろう。 嘘をついてもいい日、なんて許可を貰えなくても、皆が嘘を吐きまくっている。 「不快な思いにさせて申し訳ございません」 「○○さんに会えるなんて光栄です」 「いつもありがとうございます」  全部嘘。  その台詞を言う時、私なんかはこう思ったりもする。 「謝って早くこいつを帰らせよう」 「○○をおだてて都合よく操ろう」 「感謝の言葉で関係の維持だ!」  私は現実的な人間だ。ブラックでもホワイトでもないグレー色の会社で働いている。嘘も方便。誰だって嘘しか言っていないんだし、嘘を言う私も別に嫌いじゃない。  私からしたら、毎日がエイプリルフール。  なのに、エイプリルフールだけ嘘をついていいと言われると、嘘が悪いことのように聞こえる。  それが解せない。  四月一日に、同じ部署の後輩に食事に誘われた。 「今日、晩ご飯に行きませんか、二人で」 「あー、エイプリルフールね」  社会人にもなって、こんな罰ゲーム馬鹿みたい。エイプリルフールさえなければ、こんなくそしょうもない嘘も、罰ゲームもなくなるのに。 「エイプリルフールってなんであると思います?」  だけど後輩の口からは想像もしえなかった言葉が出た。 「こんな嘘しかない世界でエイプリルフールがあるのは、本音を言える日を作るためじゃないのかな、って僕は思うんです」 「……」 「今日、晩ご飯に行きませんか、二人で」   「行きたく……ないです」
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