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「菜々のパパは、全然大丈夫なんだ!ケガなんて、気合で直しちゃうんだよ!」と僕が大きな声で叫んだ。
仲間と近くにいた人たちが驚いて僕の方を見る。
「え、あ、…えぇぇ!そんな人間いるもんか!」とすぐに反応してくれた斗真。
「実はね、菜々のパパは超人で、こう『ハッ』て……」と咄嗟に出た『嘘』をなんとかして繕おうとする僕に、
「そうなんだよ。役場の幸村さんは超人だって有名なんだよ」と鳴海がフォローする。
「そ、そんなの信じられないよ!嘘に決まっている!」とオーバーリアクションの由奈。
その僕らの様子を見て、そばにいたおばさんが「あの怪我した人、役場の幸村さんだったの!?なら大丈夫よ!あの人、鋼の身体を持っているのよ!」と隣にいたおばさんに声をかける。
「まぁあ!そうだったの!だったら大丈夫ね!鋼の幸村さんって有名だもの!」とわざとらしく応えるおばさん。
「何何?」
「本当に!?」
「そうそう!」
気がつけば野次馬が、菜々のパパは超人で怪我なんてすぐ治せるという『嘘』と『リアクション』を口々に叫び出した。
きっとそれは、菜々のパパである『役場の幸村さん』の怪我が大したことありませんように、早く治りますようにと願って……。
その夜、幸村家の家の前にタクシーが停まり、ひとりの男性が降りてきた。
男性は家に入ると、リビングのソファで泣き疲れて眠ってしまった愛娘の頭を愛おしそうにそっと撫で、その身体を抱き上げた。
僕たちは幸村家の正面、鳴海の家の二階からその様子を目撃していた。
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