0人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
俺は正真正銘の最強なスキルを得た。
敢えて名付けるなら、引っ越し、だ。
そうだ。
……引っ越しという名の能力なのだ。
それは、
他者の体を乗っ取るなんてチープなものではない。時を止められるだとか、現実において結果に辿り着かせないだとか、そんな時を操作するような脆弱な能力でもない。敢えてで言えばスキルの強奪や模倣なんて、こすズルい能力でもない。
まあ、それが、何なのかは、ここでは明かさない。いや、俺は楽しみたいのだ。
そうだ。この話を読んでくれている傍観者と暇つぶしのゲームをしたいわけだ。
俺は、現実世界で死に、三回の転生を経験した。無論、最強なスキルを得てだ。
その、三回、全ての転生での俺の立場と何をしたのかを、これから述べようか。
そして、
もし、この語りが終わるまでに能力を当てられる者が現われたら、その時は能力を傍観者に譲ろう。なぜ、最強とも思える能力を、そんなにも簡単に譲る事が出来るのか。ちょっとだけ想像してみろ。そしたら分かる。簡単にもなる理由が。
例えば、最強と呼ばれているにも関わらず戦いに身を投じる御仁がいるとする。
その最強な男〔まあ、女でもいい〕は己にとって思い通りにならない事があるからこそ絶望する事もなく戦いを続けていけるのだ。逆に考えてみろ。正真正銘の最強なスキルが手に入ってしまえば、この世は、何もかもが思い通りなわけだ。
全てが思い通りの世界。
ゆえに望むものが全て手に入る世界。
それは金銭であろうと地位や名誉であろうと、もちろん他人の心であろうと、その全てが望みさえすれば手に入るのだ。言うまでもないが、能力を手に入れた当初は楽しい。が、三ヶ月もあれば飽きる。なにせ、まったく何もせずとも……。
息を吸うよう全てが思いのままなのだからな。これほど、つまらない事はない。
うむっ。例え話をしようか。喩えだ。
仮にだ。
小説家になりたいと願ったとしよう。
すると、
思い通りの世界とはこういうものだ。
次の瞬間、小説家になる。それどころか、小説家になった後で売れっ子になりたいと願えば、また次の瞬間から売れっ子になる。すわ歴史に名を残す作品を書きたいと願えば書かずとも次の瞬間、歴史に残る名作が目の前に現われるわけだ。
なにもせずとも、ただ生きてさえいれば願いは叶うわけだ。
つまり、
これを戦いに置き換えれば、勝ちたいと思うだけで、形はどうであれ、絶対に勝てる。それは個人同士の戦いだけに留まらず、国家間であろうと、星系間での戦争であろうと勝ちたいと願うだけで勝てるのだ。無論、生きてさえいればだな。
そんな状態で三ヶ月も生きれば全てに絶望する気持ちも分かるってもんだろう。
なにもかもが、つまらなくなるのだ。
カネが唸るほどあればカネに頓着しなくなるのと同じだな。
だからこそ言いたい。最強と呼ばれて生き続ける人間は最強ではないのだ、と。
すわ生き続ける事が難しくなるのが最強という事なわけだ。
まあ、どうでもいい前置きは、これくらいにしておこうか。
そんな事よりも俺は余興にもなるゲームを楽しみたいのだ。
それこそ、このクソつまらない人生の暇つぶしの為にもな。
……そろそろ始めよう。
Get Ready for the next Battle! だぜッ!!
まず、俺は、現実世界で〔まだ、ただの凡人だった頃〕相も変わらず代わり映えもしないトラック事故で死んだ。いや、たとえトラック事故じゃなくても、どんな理由が在るにしろ相も変わらず死ぬところから始まるわけだ。そして転生だな。
お決まりの手違いだのなんだのという理由で、このチートな能力をもらってだ。
そして。
一回目の人生は、これまたウンザリするぐらいありがちなファンタジーな世界。
俺自身、転生は初めてだったから敢えてファンタジーにしたわけだな。うむっ。
剣や魔法で魔物と戦い、武力こそ全ての弱肉強食な世界だ。
その世界での俺の立場は剣聖。剣技を極め尽くし、魔力も大賢者並みで古代語から、その世界で将来現われるであろう未知の言語〔あとで知ったのだが、それは元の世界でのプログラミング言語でAIを使役出来るもの〕すら使いこなした。
まあ、ぶっちゃ敵などいなかった。その世界での最強な敵、魔王すらも秒殺だ。
いや、秒殺どころか、ナノ殺だった。
ピコまではいかなかったがな。ふむ。
そういえば、殺したぐらいで俺が死ぬと思ったか? と、のたまったヤツがいたが殺される状況になるくらいじゃ弱者だな。真の強者は殺されるような状況にならない。それどころかピンチにすらならない。だから魔王ですらナノ殺なのだ。
と転生をして魔王を倒すまでに要した時間は30分だった。
まあ、転生した地から魔王城まで移動しなくちゃだからな。
そうだな。ラノベ好きな傍観者の為にページ数で答えれば三行だ。一ページにもならない。今北産業のリクエストにすら応えられる文字数だぜ。で、魔王を倒したあと、ちょっとの間だけ爽快だった。なにもかもが思い通りなのだからな。
ただ三日で飽きた。理由は先述したから省かせてもらおう。
そして。
自殺した。どうでも良くなったのだ。その剣聖という大賢者な人生と世界がな。
しかし、
相も変わらずの女神というか、神というかは、そのまま安らかに死ぬ事を許してくれなかった。また次の転生となる。無論、先と同じ最強なスキルを持って。次に生まれ変わった世界はロボットとAIが暴走したポストアポカリプスな世界。
その世界での俺の立場はあり得ない天才ハッカーとなった。
何故、あり得ないのかと言えばロボットの腕力を遙かに凌駕する肉体を持ち、今度は逆に古代語まで解読でるという最強さ。つまり魔法すら行使できたのだ。コンピューターがそのほとんどを司る世界で、唯一、魔法が使える人間が俺だった。
天才ハッカーというだけでも無敵なのに、その上、魔法の行使と格闘をこなす。
しかもロボット相手に生身で、だぞ?
北斗神拳伝承者もビックリな肉体だ。
うむっ。
その世界を破壊する〔興味本位で世界自体を破壊してやった〕のに要した時間は三十秒少々。あのファンタジー世界での魔王を倒すのすら三十分かかったのに今度は三十秒だ。まあ、俺も成長してるんだろう。無論、無敵なスキルもな。
まあ、その後、蘇って、また転生させられるのだが、今度は、それこそナノ殺。
またピコではなかったのは、ご愛嬌。
どんな世界で、どんな敵がいてなんて、それすらも興味が湧かないほどの速攻で世界を滅ぼし、そして、その世界を救って英雄となった。もちろん初めに俺が世界を滅ぼしたという事すら一般大衆には分からないほどの速さでな。ククク。
以上だ。
さあ、俺の、三回の転生での立場と為した出来事を語った。
モニターの先で干渉している傍観者達よ。ここまで聞いて。
俺の能力がなんなのかが分かったか?
うむっ。
このままでは、ある意味で不親切とも言える。そうだな。大サービスなヒントをやろうか。それは始めにも言ったが、その能力の名は引っ越しという事。つまり敢えて名付けるとするならば引っ越しがしっくりくるという事から考えろ、だ。
うむっ。
分からないか? まずは有り体やありがちに支配された硬い脳を柔らかくしろ。
テンプレ滅殺な脳へと転換してみろ。
なろう系だか何だか知らないが、そこでの、ありがちな展開、当たり前な能力、相も変わらずなキャラの立ち位置、そういったものを全て捨てろ。裸の心で常識を疑い、可能性の全てを精査しろ。そうだ。引っ越しというヒントがあるんだ。
まだ分からんか。おい。
うむむ。
ハハハ。
あと三秒だけは待とう。
もちろん、今、ようやく俺にも思い通りにいかない事が出来たからこその余興。
そうだ。結局、俺が俺の能力を使い、思い通りにいかないのはメタな世界にしかないのかもしれない。今、分かった。いや、むしろ逆に言えば俺にも思い通りにいかない世界が在ったからこそ俺の能力や人生には、まだまだ先があるという事だ。
よしっ。
三秒経った。ようやくタネ明かしだ。
その前に、あと、もう一度だけ聞く。
俺が持つ最強なスキル、引っ越し、それの正体が分かったか? ……傍観者よ?
うむっ。
まあ、分かったにしろ分からなかったにしろ、そのどちらでもタネ明かしだけはしておこうか。まず、なぜゆえ最強なスキルを引っ越しと名付けたのか、だが、それは転生する世界を選べる事にある。引っ越し時にする部屋選びのようにだ。
ファンタジーな部屋〔世界〕を選べばファンタジー。ポストアカポリスならば。
だなッ。
無論、部屋に対しての条件、つまり、角部屋だとか、コンビニまで何分だとか、
そういったものすら転生前に選べる。
つまり一回目の転生での剣聖で大賢者というのは部屋に対しての条件なわけだ。
言うまでもないが、その世界で使えるスキルも選び放題だ。ソレは何個でもな。
無論、古代語や未知の言語〔プログラミング言語〕を解読できるという詳細条件までもが思いのままだ。その上で、ペット可や家具付きなどの、もっと詳細な条件すらも選べるのだ。転生で言えば自分の肉体能力や思考能力などがソレだな。
その詳細な条件指定こそが、二回目でのロボット相手に近接格闘が出来た所以。
もちろん、ポストアポカリプスな世界で魔法が使えた思考能力も、また、だな。
そして。
駅まで何分と家賃に関しては、寿命と代謝いったところか。
転生においての駅まで出れば世界をまたげる。つまり、その世界での寿命を終え次の世界へと、という事。次に家賃。やはり自分という人間を動かす為の代償。食事の量であったり、睡眠が、どれだけ必要なのか、だな。それも設定できる。
それらリクスや必要な労力を考え得る限り低く見積もれば、
だなッ。
うむっ。
ここまで、詳細にタネ明かしをし、引っ越しが、どれだけヤバいか分かったか?
簡単に言えば条件を整えれば神にでもなれる能力なわけだ。
世界すらも好きに選べるという、デッカいオマケつきでな。
まあ、物件というか、世界が、やはり多元宇宙論〔まあ、多元宇宙論が分からないヤツは適当にググってこい〕で回っているからこその最強能力なんだがな。そうだな。ここまで語りを聞いてくれた傍観者に、もう一つ大サービスしてやろう。
俺自身にも思い通りにならない世界が在ると知れたお礼だ。
よしっ、この能力を、お前にやろう。
無償でな。どうだ。嬉しいか。嬉しくないか。まあ、どちらでもいい。知らん。
とっとけ。なにも言わずにな。うむ。
どんな感じでもいい。好きに使ってくれ。それは、お前が神の世界での主人公に持たせてもいいし、逆に悪役然としたヒールに持たせてもいい。その上で、この最強能力を破る、もっと強い能力が見てみたい。それを魅せてくれ。俺に。頼む。
マジで。
お終い。
最初のコメントを投稿しよう!