プロローグ

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庭の片隅に一本の桜の木が植えられている。桜は隣に建っている古い二階建ての家よりもずっと高い。枝を支える幹はまさに大木と言えるほど太く、象が体当りしてもびくともしないだろう。ドーム状に生い茂った枝は10mの範囲に広がり、雨が降ってもその下で大人たちが雨宿りできる大きさだ。枝には薄いピンク色の花が満開を迎え、桜自身の美しさを主張していた。 そして、家の縁側には品のある、綺麗なおばあさんが桜を見つめて座っていた。 「この家の辺りに新しい道路ができるらしいですね。地価が高騰しているから土地を売れば一攫千金のチャンスだったりして!?」 「そうだけど…。私はここ以外に住むところがないのよ」 「もっと良い場所に引越せばいいじゃないですか。広い土地とか、日当たりが良好な場所とか?」 「そうもいかないわ。若い者なら新たな環境にも適応できると思う。だけど、私のような年寄りにそれは厳しいのよ」 「ふ〜ん。面倒な話なんですね」 バサバサ、バサ。桜の木からスズメが一羽飛び立って行った。
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