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「ふぅ……疲れたな。ちょっと休憩」
彼女は、両肩を上下に動かしながら、
窓辺に近寄り両手で窓枠を掴むと、
いつものように力強く窓枠を上に押し上げた。
ガラガラガラ……。
夜風が部屋の中に入って来ると同時に、
彼女は目を閉じると、頬にあたる風の心地を
楽しんだ。
夜空を見上げた彼女は両手を頭上に挙げ、
背筋を伸ばす……。
「う~ん、今夜もいい風だ」
と呟く彼女が歩道に目をやると、
彼女が住む建物の一階の正面玄関の前に
設置してある花壇のヘリの部分に座っている
キャップを深く被った彼の姿を見つけた。
「こんばんは……」
彼女が彼に声をかけるとそれに気づいた彼は、
二階の窓辺を見上げ、ニコッと微笑んだ。
「どうしたんですか?
今夜はそんなところで……帰らないんですか?」
と彼女が尋ねると、
花壇のヘリから立ち上がった彼から
意外な言葉が返ってきた。
「ねぇ、俺、今日誕生日なんだよね……」
「へ~、そうなんですか……」
「だからさ、お祝いしてよ……」
「お祝い?」
「そう、お祝い。今から。
そっちに行っていい?」
「は? え? え~」
驚く彼女をよそに、彼は、正面玄関の
ガラス扉を開けると、建物の中に入って行った。
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