誕生日

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 タッタッタッ……と階段を駆け上がる足音。 階段を上がり終えると彼女の部屋に 近づいてくる足音。  足音が、彼女の部屋の前でピタッと止まると、 ジリジリジリジリ…… とまるで駅の列車到着を知らせる合図のような ブザーの音が彼女の部屋に響き渡った。  「ひゃっ……本当に来た」  彼女は驚き、ドアののぞき窓に自分の目を 押し当てた。  まあるい覗き穴から見えたのは……  キャップを深々と被って、肩から鞄を下げ、 両手に何かを持った自分と同じくらいの年齢の 彼の姿……。  身体を上下に少し揺らすと、ドアが開くのを 待つ仕草……。  と、その瞬間、彼の顔がのぞき窓の穴に近づく のが見えると、  「ひゃっ……」  彼女は驚き、思わず後ろに後退りをした。  トントントン……。   静かにドアを叩く音と共に、ドアの向こうからは  「ねぇ……開けてよ……」  と彼の声が聞こえてきた。  彼の声に誘われるように、 彼女はゆっくりと玄関のドアを開けた。    ガチャ……。   ドアを開けると、目の前にキャップを 深々と被り、黒いパーカーを 着た彼が立っていた。  「どうぞ……」  彼女が呟くと、彼はニコッと微笑み、  「おじゃまします……」  と言って彼女の部屋の中に入って来た。    ガチャ……ン……と音が鳴り、 静かにドアが閉まった。
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