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第2話
「いてぇ、痛いよ~」
宮下の右足のふくらはぎに鋭く熱い痛みが走った。
「倒れるな。どこか隠れられる場所を探そう」
園田はしゃがみこもうとする宮下の腕を肩にかけて、無理矢理走らせた。
「おそこに洞穴が」
斜面の中腹に洞穴がチラッと見えた。
「あんな見えにくい場所の洞穴よく見付けられますね」
木々の侵食で、全体像が見えない洞穴は、隠れるにも良さそうだ。
「まずは、登らないといけませんね」
山の斜面だったが、地面から生えた草や茎を手で絡めて滑り落ちないように登っていく。
宮下を両脇から支えて、3人で洞穴の前までやってきた。
「今から穴に石を投げるけど、何が出てきても叫んだらダメだ。男達に居場所がバレるからね」
園田の言葉に2人は頷いた。
3人は洞穴の脇に身を隠して、園田が洞穴の中に石を数個同時に投げ入れた。
バサバサバサっ
黒い不気味な鳥が洞穴から出てきた。
「ひぃぃ」
鳥だと思ったのは蝙蝠だった。
悲鳴をあげたいのを手で口を押さえて必死で堪えた。
洞穴は3人が過ごすには十分な広さがあった。
「まずは矢を抜こう」
「お願いします」
宮下は既に矢を抜く痛みを想像していた。
「水があれば、せめて洗い流せたんだけどな。矢を抜いた痕に火で焼くのは嫌だよな」
「火ひっ」
宮下は思いもしなかった言葉に度肝を抜かれている。
「血止めが必要だと思ってな」
「あのハンカチはあります。あとソーシングセットも」
「ハンカチで巻いて、血が止まらなければ針を焼いて傷口を縫おう。ハサミも入ってるなら包帯の太さに切ってつなぎ合わせてもらえるか」
「糸切りの小さなハサミだけど、布は切れ目を入れたら裂けるので大丈夫です」
清香は話し終わる前に、ポシェットからソーシングセットを出してハンカチに切れ目を入れ始めた。
「じゃあ、抜くよ。声を出さないように、木を咥えて」
「おっ、お願いします」
宮下は園田に言われるがまま20センチ程の木を口に咥えた、
そして矢を抜く瞬間を見たくないのか、視線を反らして目を瞑っている。
「3で抜くぞ。1」
園田は1で一気に矢を抜いてしまった。
「ぐううっ、園田さん酷いです」
宮下は恨めしそうに園田を見た。
「3で覚悟を決めたら2で力が入るから、その前に抜いてやったんだ」
悪かったと、宮下の肩を叩いて励ました。
「出来ました」
清香はハンカチを裂いて作った包帯を二人に見せた。
「じゃあ内側に俺のハンカチを当てて、少しだけきつめに巻いてやってくれる?」
園田はポケットから畳まれたハンカチを出して、宮下の傷口にのせた。
「はい。宮下君、もう少しだけ我慢してね」
「ああ、頼む」
清香は宮下のふくらはぎに包帯を巻いた。
「宮下君、大丈夫?」
清香は宮下のおでこを触った。
「ちょっと壁に寄っ掛かりたい」
宮下は立たずに、両手で地面を押して、腰を何度か動かして背中を洞窟の壁に当てた。
「痛てぇ、あの男達は何なんだ?頭がおかしいとしか思えない」
「おかしいのは、それだけじゃない。俺達は上野公園で花見をしていた筈だ」
「確かに桜は咲いてますが、ここは上野公園じゃありませんね」
今いる山も、山の桜も、洞穴もとても東京とは思えなかった。
それに男達は、まるで平安時代の貴族みたいだ。
「男は、何か言ってなかった?」
「何か短歌みたいなのを口にしていました」
「どんなのか覚えてる?」
「春来ぬと人は言へども鶯の鳴かぬとか言って、私達を3羽の鶯に例えてましたよ」
「鶯の鳴かぬ限りはあらじとぞ思ふ、古今和歌集だったかな」
「古今和歌集って歌会でもしてたって事でしょうか?」
「ただの歌会ならいいけど、桜の下で人間狩りをする貴族って現代とは思えないんだけど」
「まさか流行りの異世界転生?」
宮下が咄嗟に口にした。
「いや、どちらかと言えば過去じゃないかな」
園田も異世界転生じゃないと否定する当たり、その辺の話しに詳しいらしい。
「そんな私達どうしたら元の場所に戻れるんですか」
清香は涙目になっていた。
「分からない。とにかくこの洞穴で過ごすなら、火が必要だな。薪になる木を探してくるよ」
「待って下さい。私が薪拾いをするので、園田さんは可能な範囲で食料と水を確保してきて下さい」
清香はたすき掛けしていたポシェットの中から買い物で使うショッピングバッグとビニール袋を差し出した。
「ビニール袋には水をお願いします。でもあの男達には気を付けて下さいね」
「お、おうっ」
泣き言でも言うのかと思えば、テキパキと指示をしてくる清香に二人はビックリしていた。
洞穴から出た清香は、近くに落ちている枯れ木を拾って集めた。
「水を持ってくるつもりだったんだけど、野鳩かな?あいつらが狩った鳥が2羽落ちてたから貰ってきた」
園田は獲物をゲットしたと洞穴に入ってきた。
「やりましたね。園田さん、ライターは持ってますか?」
「ああ、あるよ」
園田は清香が集めた枯れ木に火をつけた。
「良かった。ライターを持っている人がいなかったら、火を確保するのが大変だと思ってたんです」
サバイバル番組でも、火をつけるのに苦労しているのは一目瞭然だった。
園田は学生時代、滅多にタバコは吸わなかったが就職してから吸う事が多くなっていた。
ストレスに救われたって事か?
その日は野鳩を食べて、3人とも早めに休んだ。
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