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そして、兄弟は決意した。
この世界にはいるものである。
他人を傷つけても平気、他人からものを奪っても平気、与えられる恩恵に感謝の一つもしないような連中が。
「お、お前こんなにいい帽子持ってたのかあ!」
僕がはっとした時には既に遅かった。僕は、たくさんのいじめっ子たちに囲まれてしまっていたのである。
彼等は僕が被っているふわふわの帽子に目をつけたようだった。失敗した、と冷や汗をかく僕。ずっと、箪笥の奥の奥にしまって隠しておいた宝物を、どうして今日に限って被ってしまったのだろう。彼等に見つからないよう、箪笥の奥に埋めておくのが一番良いとわかっていた。それでも、僕だってお洒落はしたいし、好きな服を着たい。
今日は良い天気だし、ちょっとこれを着て歩いても大丈夫なのではないか。本当に、なんとなくそう思っただけだったのに。
この連中に出くわすとわかっていなければ、ちゃんと隠したままにしておいたのに。
「ふわふわで綺麗じゃん。こいつ、高く売れるんじゃね?」
「燃やしてもいい燃料になりそうだけどな、ギャハハハハハハハ!」
「いい素材使ってる。バラして布に戻して、あっちにこっちに売り飛ばした方が効率いいんじゃね?」
「や、やめて、そんなことしないで……!」
僕は頭を押さえて必死で訴える。冗談ではなかった。これは、僕がずっと大事にしてきた宝物の帽子だ。ただ奪われるのみならず、燃やされるとかバラバラにされて売り飛ばされるとか、なんでそんな酷いことをされないといけないのだろう?
しかし、いじめっ子たちはそんな僕の心などおかまいなしに、じりじりと距離を詰めてくる。なんとか、どこかから逃げる隙はないか。後退りをしていた僕の背は、どん、と何かにぶつかった。そして。
「もーらい!」
「あっ」
後ろからひょい、と帽子を持ち上げられてしまった。振り返れば、派手な茶髪の女の子が、ニヤニヤしながら立っている。僕は前方の少年達にだけに気を取られて、後ろから迫ってくる少女に気付かなかったのだ。
油断していた。
彼女もまた、いじめっ子の一人だ。
「これは、あたし達でもらうわ、ボウヤたち」
「あ、ちょっとお!」
「それ、俺らが先に見つけたのに!」
「何言ってんの、最初に取ったもん勝ちでしょ?文句あるならあたしと喧嘩でもするう?」
「こ、このやろー!」
「ま、ま、待ってよねえ!待って!」
彼等は帽子を持ったまま離れていく。彼等は歩きながら、ぐいぐい帽子を引っ張り続けていた。あんなことをされたら、そのうち千切れてしまうではないか。
「そ、それ僕の帽子だよ、僕のだよ、返して!」
「はあ?」
僕の言葉に、彼等は振り返った。そしてリーダー格の少女が、僕の姿を見てけらけら笑う。
「何言ってんの。あんたは全部、あたし達のもの。あんたの帽子も、服も、靴も、靴下も……あんたの体だってあんたのものなんかじゃないのよ?」
そういえば、と彼女は続けた。
「青い髪、また伸びてきたのね。ちょっとぼさぼさだったのがマシになってきたじゃない。そろそろ、また貰い時かしらね」
「!」
僕は慌てて頭を押さえた。前に、髪の毛を切り落とされて持っていかれた時の恐怖を思い出したのである。そんな僕を見て、いじめっ子たちは声を上げて笑い続けていた。
何で、僕はこんな目に遭わないといけないのだろう。僕は悔しくて悔しくて、ただ涙をこぼすしかなかったのである。
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