裏切り

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「春樹さん、話してたものね」  斉藤さんが春樹に目配せする。  そう言えば斉藤さん、春樹を名前で呼んでる。この人達、一体いつから。 「あんな安物の、ブランドも分からないような指輪で結婚できると思ったんですか?」 「おい、一応1万はしたんだぞ。コイツには高かったんだよな」  私の7年間はなんだったんだろう。どうして私はこの人と結婚したいって思っていたんだろう。  見ないようにしてきた現実が重石になって落ちてきて、私が作り上げてきた虚像を壊していく。  目を背けてきた報いがこれなの。 「もういいだろ碧、別れてくれよ」  久しぶりに名前で呼ばれた気がする。その久しぶりがこんなセリフ。しかもなんでこの人から別れ話を切り出されるの。こんな状況で。 「せんぱい、私のパパがうちの会社のえらーい人なの、知ってますよね?」  私はその先の言葉を予想して唇を噛み締める。 「春樹さんは私と一緒になれば出世して幸せになれるんです、邪魔しないでくださいね」  斉藤さんの言葉はもう今の私にはもうどうでもいい。もう別れる以外の道がないのだから。ならば、と私は春樹に向かって口を開いた。 「分かったわ、別れるから。だからせめて結婚資金の貯金は返して!」 「は、なんで?」
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